マイケル・ジャクソン・フォロワーの最有力候補として目されながら、ゴシップによってそのキャリアを危うくしていたクリス・ブラウンの起死回生となった通算4枚目のアルバム。ベニー・ベナッシを起用した「ビューティフル・ピープル」のようなエレクトロ・ハウス路線と共に、タイガらとのコラボ・ミックステープ発のヒット「デューセズ」など、リスナーを選ばず全方位に対応。キャリア初のグラミー賞"ベストR&Bアルバム"を獲得。2011年作品。 (C)RS
JMD(2015/10/31)
エレクトロに擦り寄ったR&B――クリス・ブラウンの音楽がこう思われているとしたら残念だ。前作『Graffiti』でのエレクトロ・マナー以上に突き抜けたDJフランク・E制作のトランス・ポップな"Yeah 3x"を聴けば、もはやそれがR&Bをめざしたものじゃないことがわかるはず。"Next To You"でのジャスティン・ビーバーとの共演が伝えてもいるように、クリスがめざしているのは誰よりも早く未来を先取りする、挑戦的で尖鋭的なポップスターなのだ。ポロウ・ダ・ドンやティンバランドらの制作曲をデラックス版のボーナス・トラック扱い(日本盤にも収録)にしてまで、新鋭もしくは現行ダンス・ミュージックの気鋭による制作曲を本編に採用する思い切りの良さは、その青臭い声同様に清々しい。ディプロとアフロジャックらによるミニマルなトラックも最高な"Look At Me Now"でリル・ウェインやバスタ・ライムズに交じってラップしてみせるストリート・キッズ的な感性も痛快だ。とはいえ、アンダードッグズ製の"Up To You"のようなメロディアスなスロウをアルバム前半に置くあたりは、R&B (シンガー) という本拠地を見失っていない証拠だ。だからこそSWV "Right Here / Human Nature"のリメイク"She Ain't You"も説得力がある。ハーモニー・サミュエルズの手腕が冴えわたる雄叫び入りのアップ"Say It With Me"など、その作法にマイケル・ジャクソンの影がチラつくのもクリスらしい。意気込みは『Thriller』級と言ってしまいたい、会心の一作だ。
bounce (C)林剛
タワーレコード(vol.330(2011年3月25日発行号)掲載)
昨年発表した3枚のミックステープのうち、タイガとのコラボ盤『Fan Of A Fan』から"Deuces"がR&Bチャート1位を獲得して、見事に前線へと返り咲いたクリス・ブラウン。以降もトゥイスタ"Make A Movie"やチップマンク"Champion"といった客演曲をヒットに至らしめていたが、<Fans Are My Everything>を意味する表題で登場した新作『F.A.M.E.』は、先行ヒット"Yeah 3x"の豪快な弾けっぷりに象徴されるように、(自業自得とはいえ)活動自粛中のモヤモヤを発散せんとする勢いに満ち満ちている。いわゆるアーバン業界外の大物を多数迎えた制作陣のドラスティックな変化もポイントながら、彼らの参加がそのまま大味なダンス三昧に直結しているわけではないのも興味深い。むしろ、ディプロらによる幻惑スナップス"Look At Me Now"や、前作でも"I.Y.A."で組んだフリー・スクール(ウィル・アイ・アムの電化参謀でもある)のトロピカルな重低音ダンスホール・バウンスにウィズ・カリファを招いた"Bomb"などは現行アーバンにおけるクリスの正統な進化を促している。ベナッシ兄弟らしい腰の入った"Beautiful People"も"Forever"でR&Bの4つ打ち化に先鞭をつけた男としては当然の深化形態だろう。一方では序盤に安定感のあるスロウを配し、伝統的なR&Bシンガーとしての魅力も発揮しているのが頼もしい。また"Deuces"を書いた盟友ケヴィン・マッコール、ポロウとティンバランドが後見するティモシー・ブルーム (注目!)、先述の"Champion"も手掛けたハーモニーといった新進気鋭の才能が要所で抜擢されているのも、アルバム全体のフレッシュな印象を裏付けるものだ。例の<彼女>がトレンドウォッチャー化したのに対して、クリスは駆け足で一気に遅れを取り戻し、そのまま時流を抜き去ろうとしている。これは傑作。
bounce (C)出嶌孝次
タワーレコード(vol.330(2011年3月25日発行号)掲載)