美貌、気品、技巧、知性を兼ね備えた名手アースの貴重なステレオ録音2作を1枚に収録。オリジナル・ジャケットは世界初復刻!
モニク・アース(1909~87)はパリ音楽院でラザール・レヴィ(1882~1964)に学んだあと、ロベール・カサドシュ(1899~1972)に師事しました。「魅惑的にピアノを演奏する愛らしいモニク・アース」。名ピアニストでもあったフランスの大作曲家、フランシス・プーランクは彼女をこのように評したと言われています。アースの魅力として先ず、一昔前のフランスのマダム然とした舞台姿そのままの(彼女の夫はルーマニア出身の作曲家、マルセル・ミハロヴィチ)気品と親密さを感じさせる表現が挙げられます。整った造形の中で、彼女のタッチは硬軟強弱が絶妙に変化し、聴き手に親密に語りかけ、その余韻の美しさに陶然とさせられることもしばしばです。二つ目には彼女の敏捷なテクニックを挙げられます。タッチをクリアーにしたまま疾走するときの小気味よさ、タッチを柔らかくしたまま疾走するときの光が乱反射するような美しさ。これらはとくにフランスの近現代音楽を演奏するときに最大の効果を発揮します。三つ目には彼女の高い知性でしょう。普段から夫の友人である在フランスの作曲家たち(エネスコ、マルティヌー、A.チェレプニン、タンスマン、ベック、ハルシャーニ)や哲学者たちと交流があったと伝えられますが、彼女の様式把握に対する鋭い感覚や、同時代音楽への共感と深い理解は、彼女自身の優れた資質に加え、こうした環境により磨かれたものでしょう。それでいて演奏面で「知」が先走りしないのは、彼女が持ち合わせている別の側面である「気品と親密さ」がそれを包み込んでいるからに違いありません。(1/2)
タワーレコード(2015/09/09)
このドビュッシーの前奏曲集は1962年7月(第1巻)と1963年1月(第2巻)にベルリンのイエス・キリスト教会でステレオ収録されました。ここには前述した彼女の魅力が美しい録音により見事に捉えられています。冒頭の「デルフィの舞姫たち」から彼女の温かいタッチと親密な表情は、舞姫たちの柔らかな踊りの優美な美しさを伝え、2曲目の「帆」では一転してクリアーなタッチで始まるので、作品の世界観ががらりと変わったことを強く印象づけられます。そのタッチもいつしか柔らかく滲み、波と風の様相の変化を見事に描出。3曲目の「野を渡る風」では彼女の指の敏捷性と鋭いリズム感覚、色彩感覚が作品を実に生き生きと再現してゆきます…。こうして書いてゆくと際限がなくなるほど、彼女の演奏は表現が極めて多彩であり、同時に作品の理解、把握も深く、鋭いと言えます。それはドビュッシーの前奏曲集という作品自体が驚くほど深く、幅広い世界をもっているからに他ありませんが、そのことを聴き手に痛感させるのは彼女がその深く、幅広い世界を卓越した想像力で理解し、その想像した音の世界を完璧にピアノで表現する技巧をもち、存分に描き切っているからでしょう。初出LPの2枚のジャケット写真も素晴らしいです。陶磁器や絵画が飾られたヨーロッパ風の部屋の中で彼女を撮ったカラー写真ですが、ドビュッシーの作品や彼女の演奏の豊かな色彩にぴったりであり、知的な風貌や親密な微笑がまた彼女の芸術の特質を伝えて止みません。これはドビュッシーの前奏曲集という作品を知る上で、そしてモニク・アースという優れたピアニストを知る上で、かけがえの無い1枚です。尚、表のジャケットでは前奏曲集第1巻の初出時のもの、ブックレットの裏には第2巻のオリジナル・ジャケット・デザインを配置してあります。解説書には、新規で序文解説を掲載しました。音質面でもこれまでのコンセプト通り、オリジナル・マスターからのハイビット・ハイサンプリング(192kHz,24bit)でデジタル化した音源をCDマスターに使用しましたので、これまでの音質と比較し、より高解像度で滑らかな音色を味わうことができます。(2/2)
タワーレコード(2015/09/09)