シューベルト: ピアノ作品集～「さすらい人」幻想曲, 楽興の時, 3つのピアノ曲, 13の変奏曲, 4つの即興曲 D.899 & D.935, 他＜タワーレコード限定＞

詩情豊かな響きの世界が拡がる、ケンプならではのシューベルト。DGにステレオ録音で残したソナタ以外のシューベルトを集成。

ケンプはステレオ録音によるベートーヴェンのピアノ・ソナタ全集を完成した後、シューベルトとシューマンのピアノ作品の録音に集中して取り組みました。ここにはピアノ・ソナタ集を除く、彼のシューベルト録音がCD3枚にまとめられています。ご承知のようにシューベルトの創作は、同じウィーンを拠点に活動していた先輩作曲家にあたるベートーヴェンを範としていた訳ですが、二人の個性の違いとともに、シューベルトを襲ったベートーヴェンとはまた違った過酷な運命(当時の不治の病の発病し、僅か31歳で死去)により、20代後半にして晩年の物悲しさを歌ったような作品を生み出すようになります。戦前は"歌曲王"として偉人の列に加えられていたシューベルトの作品に対し、近年こうした彼の精神的な苦しみ見いだし、それを拡大解釈した演奏も増えてきました。ところが、ここでのケンプは、近年流行の作為的とも言えるアプローチとは対極にある、まったくの自然体でシューベルトに対峙しています。1曲目の"さすらい人幻想曲"から楽譜への態度はまったく正直で深読みがなく、端然と弾き進めます。よどみなく流れる音楽からはシューベルトの抒情と詩情が自ずと吹きこぼれてゆきます。この作品は技巧的にも難曲として知られていて、現代のピアニストならもっとタッチを硬質にして切れ味鋭く演じるところでしょうが、ケンプはシューベルトを演じて技巧を感じさせることは露ほども考えていません。ここにはクラシック音楽がグローバル化する以前の、あらゆる拡大解釈を排した、ドイツの優美で気品高いシューベルト演奏が息づいています。"楽興の時"や"即興曲集"での楽譜の行間を読むような自然な緩急、強弱、タッチの濃淡の変化も実に美しく演じられています。さまざまなアプローチで演じられるようになった21世紀のシューベルトですが、その演奏法の原点に立ち戻ろうとしたとき、このケンプの演奏集はかけがえのない録音遺産となることでしょう。音質面でもこれまでのコンセプト通り、オリジナル・マスターからのハイビット・ハイサンプリング(192kHz,24bit)でデジタル化した音源をCDマスターに使用しました。これまでの音質と比較し、より高解像度で滑らかな音色を味わうことができます。ジャケット写真には、DISC1の曲目の初出時のオリジナル・ジャケット・デザインを使用し、解説書には、新規で序文解説を掲載しました。ケンプの生誕120年を記念するに相応しい、保存盤です。今回発売のVol.3は、同時に全5点を発売いたします。