マックス・ローチ、アート・ブレイキー、ロイ・ヘインズといった巨匠ドラマーと共演、ソニー・ロリンズ、ジョー・ヘンダーソン、デクスター・ゴードン、アート・ペッパー、フレディ・ハバード、ウッディ・ショー、ボビー・ハッチャーソンら・・・数々のジャズ・レジェンズから愛されてきたピアニスト、ジョージ・ケイブルスの新トリオ作品!
サイドマンとしての仕事が多忙であったため、リーダーとしての録音機会はキャリアや実力と比較すると決して多くありませんが、1944年生まれ、近年60代70代となってリリースされる作品はどれも秀逸。2013年にリリースされた『Icons and Influences』は10年先輩のシダー・ウォルトン、後輩のマルグリュー・ミラーに追悼の意を表した演奏なども織り込み静かな感動を呼びました。
そして、本作も偉大なるピアニストの楽曲を選曲した滋味溢れる作品になりました。
演奏されるのは敬愛するジョン・ヒックスを始め、デューク・エリントン&ビリー・ストレイホーンの楽曲たち、そしてケニー・バロン。共通するのは、どのアーティストのどの楽曲にも、インテリジェンスが薫るところでしょう。ミディアム、スロウのバラードはもちろんのこと、文字通り"スウィング"をテーマにしたM4のようなリズミカルなナンバーも、気品が漂います。それこそはケイブルスのジャズへの敬意から生まれるものと感じますが、ロバータ・ガンバリーニが選曲したことによって出会ったオープニング<After theMorning>の演奏では、名クラブであったブラッドレイズでジョン・ヒックスがピアノを弾いていた姿を思い出し、数々の記憶や感情が蘇ったのだとか。ジャズの歴史を生きてきた、なんともケイブルスらしいエピソードといえましょう。
一方、オリジナルも秀逸。特に7曲目は45年間教師生活を送ったという母親に捧げた一曲で題名は母親の名前の頭文字とか。スウィングするワルツのリズムを基調にしながらレガートやハーモニーにエレガントさを感じさせる演奏もケイブルスならではです。
ライナーノーツには、"複雑なアレンジは好まない、音楽が自らに語りかけるままに自分らしく演奏したい"というようなことがありますが、長年培ってきたものを土台に、時には導かれるものに委ねながらの演奏は正にベテランならでは。またトリオのメンバーは長年の共演を誇る職人ドラマーのヴィクター・ルイスと、中堅所ながら、そのタイム感やグルーヴ感など音楽的なセンスをケイブルスが絶賛するベーシスト、エシェット。トリオとしてのコンビも抜群です。
ラストにストレイホーンのロマンティックなバラード・ナンバーを据え、しっとりとソロでしめるところも粋。これからもいい音楽を聴かせ続けてほしいと思わず願ってしまうような味わい深い一作です!
発売・販売元 提供資料(2015/06/09)
アート・ペッパーとの70年代末の共演で一躍その名を高めたケイブルス、地味だがコンスタントな活動を通してファンは多い。ジョン・ヒックス、ケニー・バロンといった日本でも人気の高いミュージシャンの作品を採り上げた本作は、70歳を超えた顔も制作意欲に満ちた彼の横顔が見え隠れする。演奏でもすべてのスピードで実力を維持しており、昔の名前で弾いてます的な演奏とは違いスピード感とリリカルな寛ぎを両立させた作品となっている。中では3曲採り上げた敬愛するビリー・ストレイホーン作品での演奏が光る。ベテラン・ジャズ・ファンに聴いて欲しい1枚だ。ビバップの精神を宿した今の音がある。
intoxicate (C)瀧口秀之
タワーレコード(vol.116(2015年6月10日発行号)掲載)