2015年2月、ブルース・バース・バンドの一員として来日。ジャズの伝統とコンテンポラリーな世界を自在につなぎ、エレガンス漂う演奏で、満員の観客を魅了したアナット・コーエンの新作品。彼女の新作のテーマはブラジル!90年代にミルトン・ナシメントらミナス派アーティストが集合した名盤『クラビ・ダ・エスキーナ』を聴いて以来、ミルトン・ナシメントのヴォイスに魅了され崇敬しているというアナット。オープニングはウエイン・ショーターとの共演盤としてジャズ史にも輝く『ネイティヴ・ダンサー』でも演奏された<Lili a>。その一曲だけで、アナットのこの作品にかける思いが伝わりますが、NYの仲間たちと共に、4曲でリオ・デ・ジャネイロ出身のベテラン・ギタリスト、ホメロ・ルバンボをフィーチャー。特に、バッハとバイヨンを絡めたM4など、瑞々しいギターとクラリネットが超絶で、しかも自然に絡み響き合う注目ナンバーといえますし、バーデン・パウエルに捧げたアナット自身のオリジナルM7辺りには、ショーロを呼吸するように演奏し、ブラジル音楽への深い理解を感じます。さすがは、ブラジルのプレスにも絶賛"(彼女の演奏するサンバはまるでブラジル人によって演奏されたもののようだ"と称賛されたとのこと)されたアーティストといえましょう。また母親に捧げたというM3や、エドゥ・ロボ&シコ・ブアルキによるM10はサウダージ感が滲む演奏。切なさと懐かしさが余韻を残します。しかし、中には、フライング・ロータスの曲をアコースティックに書き換え、即興を試みるといったユニークな演奏も。朋友ジェイソン・リンドナーによる提案のM2のアイディアの面白さも聴きもの。またラストは歴史的なフェスティヴァル、ニューポート・ジャズ・フェスティヴァルの興行主であるジョージ・ウェインに捧げた演奏。NYで鮮やかな活動を見せる彼女の魅力が満載された一作です。
発売・販売元 提供資料(2015/03/24)
トラペットの方のアヴィシャイ・コーエンの妹であり、3兄弟でのグループでの演奏でも注目を浴びるアナット、ヴィレッジ・ヴァンガードでのライヴ盤では度肝を抜かれ、長く愛聴する作品となった。モダンジャズ以降のクラリネット奏者の中では、傑出したテクニックと幅広い表現領域、さらにハイテンション・ゾーンでの圧倒的なエネルギー量は、レディース・ジャズのイメージを変えてくれた。本作ではリリカルな面や、ややブラジル的な面も含めてまた、新しい局面が表現された。一流のゲストプレイヤーたちの参加も含めて、彼女のさらなる可能性、世界の広がりが証明された1枚。
intoxicate (C)瀧口秀之
タワーレコード(vol.116(2015年6月10日発行号)掲載)