"My Generation, My Music"シリーズ。ファレル・ウィリアムス率いるN.E.R.Dが2008年に発表したサード・アルバム。前作までにロック要素を少なく、アーバンでクラブ的なサウンドに移行。今のファレルへ通じる音に進化した一枚。クラブヒット「エヴリワン・ノーズ」他を収録。 (C)RS
JMD(2014/12/17)
「ファレルがボルティモア・クラブのビートを買い漁ってるみたいよ。そのうち自分が発見したビートだ、って世に出すんじゃない?」とは、昨年インタヴューしたM.I.A.の弁。んで、〈ファレルが提供してくれたボルティモアの最新ダンス・ミュージックよ~〉なんて仰ったのは今年のマドンナ様。何だかねえ。ついでに言えば、ファレルが手掛けたソランジュの新曲“I Decided”はマーサ&ヴァンデラスの某曲をマーク・ロンソン風にリメイク(?)したものだったり……流行とはそんなものなので、そのこと自体は別にいい。ただ、現在のネプチューンズは、偉大なトレンドセッターだった頃とは何もかもが異なるということだ。
どんどん分業化を明確にしていたネプだが、ソロ作『In My Mind』以降もスター街道を突き進むファレルに対し、相方のチャド・ヒューゴは子飼いのケナを送り出して裏方としての評価をさらに高め、そのケナを新たな相棒にしてアシュリー・シンプソンらを手掛けるなど独自の道を歩んでいる。つまり、N.E.R.D.のプロジェクトはコンビが手を合わせる数少ない(?)機会というわけで、今回登場したサード・アルバム『Seeing Sounds』には、いままでとは少し違う期待を抱いていたのである。
で、結論から言うと出来は素晴らしい! ややマッチョな雰囲気もあった前作『Fly Or Die』に比べれば、ナードそのものだった初期の彼らのような箱庭感が戻ってきているし、その実験場からハミ出さんと大暴れするかのようなダイナミズムも健在だ。ロックンロール・ハイフィーと呼びたい先行シングル“Everyone Nose(All The Girls Standing In The Line For The Bathroom)”を筆頭に、今回はハイフィー風な声ネタのループが目立つが、アイデア一発で組み立てられたような曲は一聴してのイメージ以上に少ない。「他のアーティストのプロデュースでは踏み込めなかったことも、ここには反映できている」とファレルも認めるように、どんな着想ももう一段階上に引き上げるハイブリッドなひと手間がかけられている。『In My Mind』に足りなかったサムシングが今回は揃っている気がするのも、やはりチャドと組んだ時のファレルは違う、ということじゃないか。
都会的なジャズ調の“Yeah You”もおもしろい雰囲気だし、シュガー・ヒル・ギャング調のラップがダークなファスト・ビーツに絡む“Kill Joy”や爆裂ブレイクス“Spaz”にも驚かされた。一方で、どう聴いてもリヴァプールっぽい幻想ナンバー“Sooner Or Later”や“Happy”のような正調ロック・チューンもホントに格好良い。シネスシージア(共感覚)を元に名付けられたというアルバム・タイトルどおり、聴く者にさまざまな光景を見せてくれるような傑作だ。
bounce (C)出嶌 孝次
タワーレコード(2008年07月号掲載 (P92))