こんなにも違うのか! 1913年5月29日、パリの聴衆を興奮の渦に巻き込んだ20世紀オーケストラ曲の怪作「春の祭典」。初演から100年を経て、その原初の姿が鮮烈によみがえる。
ジンマン+チューリヒ・トーンハレの最新盤は、昨年6月に行われた「春の祭典」初演100年記念演奏会のライヴ。「春の祭典」は何度も改訂されていますが、当アルバムの目玉は、作曲者が構想した最初の姿である1913年の初稿の世界初録音。チューリヒのパウル・ザッハー財団所蔵になる自筆譜を使用し、初演にかける前の作品の原初の姿を再現。「初稿はよりソフトで印象主義的」というジンマンの言葉通り、細部のオーケストレーションが異なり、演奏を繰り返していく過程でストラヴィンスキーが改訂を加えた意図がよく判ります。ジンマン盤の特徴は、今年発売され話題となったロト指揮ル・シエクルの再現稿とは異なり、初演にかける前に作曲者が思い描いた作品の形態を、記譜のミスと思われる個所も含め、そのまま演奏していることにあります。
同じコンサートでは、作品の最終形である1967年稿が休憩後に演奏され、さらにジンマンによるプレコンサート・レクチャー(約35分)も行われており、それらすべてをCD2枚組に収録しています。ジンマンの師モントゥーは作品の初演指揮者であり、1963年の「初演50周年記念演奏会」ではジンマンがアシスタントとしてリハーサルを指揮。それゆえこの100年記念演奏会はジンマンにとって感慨深いものであり、円熟の棒が冴えわたっています。
なおプレコンサート・レクチャーでは、ジンマン(英語)、司会(ドイツ語)による語りのほか、作品の部分的なデモンストレーション演奏も含まれています。初稿と決定稿の差異や、フランス国立管とトーンハレ管のファゴット奏者によるバソンとファゴットの音色を比較したりするデモ演奏に加えて、特筆すべきは、アンセルメが1922年にチューリヒ・トーンハレ管弦楽団で第2部の序奏のみを単独で取り上げた際にストラヴィンスキーが5小節のコーダを書き足した稿(世界初録音、ジュネーヴ音楽院所蔵)、「春の祭典」冒頭の有名なファゴットの旋律のもととなったユスキエヴィッツの「婚礼の歌」がジンマンによるオーケストラ編曲で含まれている点でしょう。
「自筆譜による初稿と現行版の差異は、オーケストレーション、小節の区切り方、そして演奏についての指示にわたって数多くあります。例えば冒頭の有名なファゴットのソロは、初稿ではデイナミックスの指示がなく、演奏者の解釈にゆだねられています。これまた有名な『春の兆し』には下げ弓の指示がなく、現行版の脅迫的な趣きがありません。音楽の内容にかかわる重要な変更もあります。練習番号28では、後の改訂では18小節分の音楽が削除されています。リズムの上で複雑な『いけにえの踊り』でも非常に多くの差異が見られるのです。」(デイヴィッド・ジンマン)
ソニー・ミュージック
発売・販売元 提供資料(2014/10/17)
ハードカバー・ブックタイプのパッケージ使用。写真・図版を多数含む104ページの解説付き
(1)「『春の祭典』との人生~デイヴィッド・ジンマン・インタビュー」
(2)マイケル・マイヤー「ストラヴィンスキー『春の祭典』の起源、影響とさまざまな争点について」
(3)インガ・マル・グルーテ「1913年のパリ~ストラヴィンスキーの『春の祭典』」
(4)カーステン・レール「イーゴル・ストラヴィンスキー」
(5)マルギット・キッチュ「『春の祭典』の初演」
(6)「作品のインスピレションとなったもの」
ほかを掲載。
ソニー・ミュージック
発売・販売元 提供資料(2014/10/17)
2013年の《春の祭典》初演100年を記念して行われた初稿再現の試みは、2014年大きな話題となったロト盤と今回ご紹介するジンマン盤という、2つの素晴らしい成果に結実しました。耳慣れた1967年の決定稿とは様々な点が異なる1913年の初稿。「初演を再現」したロトに対し、ジンマンは記譜のミスと思われる部分までそのままに「初稿を再現」しました。さらに違いを明確にするためDISC2に1967年版の全曲演奏と、ジンマン自身によるレクチャーを収録。全52頁のブックレットにはそれらの詳細な解説&日本語訳、図版、譜例から年表に至るまで、驚くほど豊富な資料が掲載されています。
intoxicate (C)桐島友
タワーレコード(vol.114(2015年2月10日発行号)掲載)