これぞ巨匠の箴言。アーノンクール、四半世紀ぶりに、モーツァルト後期三大交響曲に回帰。モーツァルト:後期三大交響曲~交響曲第39番・第40番・第41番「ジュピター」/ニコラウス・アーノンクール
「ポストホルン&ハフナー交響曲」に続く、アーノンクールのモーツァルト最新録音は、何と後期三大交響曲。モーツァルト最晩年に書かれたそれぞれに個性が際立つ3曲の交響曲を、1991年12月7日、ウィーンにおけるモーツァルトの生誕200年記念演奏会でのヨーロッパ室内管とのテルデックへのライヴ録音以来、ほぼ四半世紀ぶりに録音として世に問います。録音としては、それ以前のコンセルトヘボウ管とのセッション録音(テルデック)以来3度目となりますが、オリジナル楽器を使用した手兵ウィーン・コンツェントゥス・ムジクスとの録音は初めてとなります。
アーノンクールはこの3曲を三副対と捉えており、モーツァルトの交響曲における総決算的作品として3曲を一晩で演奏することが多いようです(2006年のウィーン・フィルとの来日公演でも実践されました)。またモーツァルト作品に「ドラマの対立」を読み取るアーノンクールらしく、細部のコントラスト付けは見事で、耳慣れたこの3曲からこれまでにないような響きやアクセント、アーティキュレーションが聴こえてきます。例えば第39番では第1楽章の序奏部を通常よりも急速なテンポに設定してフランス風序曲の特徴である付点リズムを強調し、後ろ髪引かれるような主部との対比を明確にする点、超特急のようなメヌエットのテンポ、第40番では第1楽章の最初のフォルテを裏打ちするホルンの強奏、やはり通常よりもずいぶんと速いメヌエットとそれとコントラスをなすようなゆっくりとしたフィナーレのテンポ設定の妙。そして同じく第40番のフィナーレでは、アーノンクール演奏のトレードマークとでもいうべき展開部冒頭の大胆なまでのアゴーギクが耳に残ります。「ジュピター」では、第1楽章第1主題のフォルテとピアノの明確な対比、その後のトランペットとティンパニを強奏させつつ大きくクレッシェンドしていくさまからしてアーノンクールの術中に巻き込まれていき、文字通り壮麗な音の大伽藍が築き上げられていく豪壮なフーガが全曲を締めくくるまで、まさに手に汗握る演奏が繰り広げられています。指定されたすべての反復を実施することで、作品のスケールの大きさが際立つことになり、あたかも三本の巨木がそれぞれに個性豊かな葉を茂らせて立っている趣があります。
アーノンクールが同じ作品を再演・再録音する際の常ですが、自筆譜を含む作曲者直伝の資料を改めて深く研究することでその解釈は常に進化を遂げています。今回の三大交響曲も例外ではなく、基本的な解釈やテンポ配分は最初のコンセルトヘボウ管との録音以来不動でありつつも、演奏の密度の濃さ、ドラマティックな所作の振り幅の大胆さは、きわめて大きな深化を遂げています。
ソニー・ミュージック
発売・販売元 提供資料(2014/03/31)
アーノンクールの意図を100%汲みつくして現実の音にしていくウィーン・コンツェントゥス・ムジクスの献身的かつ練達のアンサンブル、両翼配置のヴァイオリン・パートを含む弦楽パートや木管パートのオリジナル楽器ならではの軋むようなノイズを孕んだ濃密な音色、トランペットやティンパニの鋭いアクセントの衝撃的効果も聴きものです。オリジナル楽器による演奏のパイオニアとして、2013年に創立60年を迎えた老舗アンサンブルならではの、熟成と革新を両立させた類まれなモーツァルト。モーツァルトの演奏史に新たな一歩を記す名盤の登場であるとともに、アーノンクールのモーツァルト演奏の一つの頂点ともいうべき衝撃の三大交響曲です。
アーノンクールの3つの録音のタイム
交響曲第39番
1980年 コンセルトヘボウ I=11:16 II=7:32 III=3:21 IV=8:02 TOTAL=30:10
1991年 ヨーロッパ室内管 I=10:45 II=8:35 III=4:05 IV=7:59 TOTAL=31:23
2013年 コンツェントゥス・ムジクス I=10:43 II=7:37 III=3:52 IV=8:22 TOTAL=30:31
交響曲第40番
1983年 コンセルトヘボウ I=6:44 II=12:56 III=3:49 IV=10:02 TOTAL=32:58
1991年 ヨーロッパ室内管 I=7:43 II=13:14 III=4:38 IV=10:46 TOTAL=36:19
2012年 コンツェントゥス・ムジクス I=7:28 II=12:09 III=4:20 IV=10:37 TOTAL=34:32
交響曲第41番「ジュピター」
1982年 コンセルトヘボウ I=13:24 II=11:38 III=5:18 IV=11:16 TOTAL=41:34
1991年 ヨーロッパ室内管 I=12:40 II=11:20 III=5:48 IV=11:02 TOTAL=40:50
2013年 コンツェントゥス・ムジクス I=13:01 II=9:31 III=5:15 IV=11:39 TOTAL=39:24
ソニー・ミュージック
発売・販売元 提供資料(2014/03/31)
「アーノンクールのモーツァルト後期三大交響曲再録音」というキーワードで食指が動くというもの。しかも手兵CMWとの録音ということであればなおさら。1991年ヨーロッパ室内オーケストラとの演奏に比べ、当然ながらアーノンクールの意思がより明確に表現されている。例えば40番終楽章展開部冒頭の独特の「溜め」は曲全体の芳醇度を高める要素として旧録音よりはるかに有効に作用している。メヌエットのほとばしる生命力も半端ではない。アーノンクールが目指していることが音楽として具現化されたとき、それがいかに素晴らしいものであるか改めて実感できる。
intoxicate (C)松下健司
タワーレコード(vol.109(2014年4月20日発行号)掲載)