映画撮影の困難を赤裸々に語った、ワイダ作品中最も挑戦的な「現代映画」
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主演俳優を不慮の事故で失った映画撮影班。彼らは関係者の死に対処し、映画を完成させることができるのか? ワイダにとって「俳優ツィブルスキの最後を飾る映画」であると共に、最初で最後の“私映画”。

本作は、「彼」と呼ばれる人気俳優が突如失踪し、その主演作を撮り始めた映画撮影チームを困惑させることで始まりを告げる。出演者やスタッフは姿を消したこの俳優を探しながらともかくも映画『すべて売り物』を作り続けるが、やがて「彼」が事故死したとの報が公表される。唐突な報せに驚きながらも、監督をはじめとする映画撮影班の面々は、なんとかその事実に対処し、撮影中の映画を完成させなくてはならない。

劇中でツィブルスキの名には一言も言及されることのない反面、主要キャストは全員、自分の本名(もしくは愛称)を各々の役名としている。アンシェイ・ワビツキ演じる監督案ジェイだけは例外だが、もちろんこの役柄にはワイダ自身が多分に投影されていることを見て取れるだろう。最新デジタル修復版

1967年1月8日、俳優ズビグニェフ・ツィブルスキが映画の撮影現場へ向かう途中、走行中の列車に飛び乗りそこねて39歳の若さで事故死した。ツィブルスキはとりわけワイダ監督作『灰とダイヤモンド』(58)の元国内軍兵士マチェク役で世界的に注目され、以後ポーランド映画界を代表するカリスマ俳優の一人として活躍していた。ワイダは、映画及び舞台で数回にわたって協働したこの友人の不慮の死に、大きな衝撃を受ける。ツィブルスキの死からワイダが受けた心痛が、この作家が初めてオリジナル脚本を単独で執筆した「私生活」を生んだ。

出演者の実像と虚像をあいまいにした設定も含め、本作は複雑に入り組んだ構造を備えている。映画『すべて売り物』の劇中でさらに映画「すべて売り物」が同じ出来事(主演男優をめぐる女優たちの関係、彼の死がもたらす創造上の変化)を扱いつつ、並行的に作り直されてゆくからである。その特異な叙述構造と自己言及性も含め、『すべて売り物』はワイダ映画の中でもっとも実験的色合いの強い作品になり続けている。