米出身のソロ・アーティスト、ベックの6年ぶり(2014年時)となる通算12枚目のスタジオ・アルバム。ジョーイ・ワロンカー(ドラム)を始め、ジャスティン・メルダル・ジョンセン(ベース)、スモーキー・ホーメル(ギター)、ロジャー・ジョセフ・マニング・Jr.(キーボード)等、2002年発表のアルバム『シー・チェンジ』に参加したメンバーが集結して制作した一枚。 (C)RS
JMD(2014/01/23)
ベックが実に6年ぶりとなるニュー・アルバム『MorningPhase』を完成! デビュー以来、コンスタントに作品を発表してきた彼にしては長いスパンとなったが、しかしそれだけ待った甲斐のある一枚に仕上がっている。そもそも〈長いスパン〉といっても、決して休んでいたわけではない。この間にシャルロット・ゲンスブールらのプロデュースを手掛ける一方、配信限定でロック名盤を丸ごとカヴァーするプロジェクトを立ち上げ、さらに数々のコラボやサントラへの参加など多忙を極めていた。なかでも興味深かったのが、2012年にいくつかの新曲を楽譜「SongReader」で発表したこと。楽譜という古来のフォーマットを使用するやり方は、これまでさまざまなジャンルを自由に交配してきた彼が、一旦その音楽の原点に立ち返るために取ったアプローチのように思う。そして、名作『Sea Change』(2002年)とほぼ同じメンツで挑んだ今回の新作では、『Sea Change』と同様に時流を意識することなく、みずからの内側に眠る〈音〉とじっくり向き合い、メランコリックなメロディーを丁寧に歌い込む姿が美しく刻まれている。12年前の作品との違いは、あくまでパーソナルな手触りながら、自分の姿やこれまでの道程を遠くから眺めているかのような、達観した雰囲気が感じられるところだろうか。原点を確認した後、ふたたび新たなスタート地点=朝の時間へと戻ってきた──そんな感慨を抱かせるスケールの大きなアルバムだ。
bounce (C)佐藤一道
タワーレコード(vol.364(2014年2月25日発行号)掲載)
夜の明ける時間──それが表題であり、今作のテーマでもあるようだが、まさしく藍色からすみれ色へと空の色が変わっていく時間に聴くといい。また、この原稿を書いている今日、関東は10年に1度と言われるほどの大雪で、まるで世界が真っ白く覆われてしまったようなのだが、そんな状態にこの音楽が驚くほど説得力を持って響いてくる。不安はあるし、ひとりだし、世界はこんなにも混沌としているけれど、でも大丈夫、穏やかに暮らせる日はちゃんと来る、そういう場所はちゃんとあるのだと、そう思えてくる。物凄く救われた気持ちになるのだ。『Modern Guilt』以来およそ6年ぶりとなるニュー・アルバム『Morning Phase』。ジョーイ・ワロンカー、スモーキー・ホーメル、ジェイソン・フォークナーら盟友が集まって録音されたもので、『Sea Change』とメンバーはほぼ同じ。実際にそのアルバムと近い感覚があるが、全体のトーンはもっと一貫していて、落ち着いたメロディーの向こうに必ず光が見える。陰鬱さがないのだ。フォーク、カントリー色が濃いものの、そこはベックだけあって恐ろしく洗練されている。サイモン&ガーファンクルを想起させる“Turn Away”からローリング・ストーンズ“Wild Horses”っぽい感覚の“Country Down”、感動的な“Waking Light”と、終盤の流れが特にドラマティックで味わい深い。シンガー・ソングライターとしていかに優れた人かが改めてよくわかる、力強くも美しい〈夜明けのアルバム〉だ。
bounce (C)内本順一
タワーレコード(vol.364(2014年2月25日発行号)掲載)