全英3位を記録した前作『Tongue n' Cheek』に続く、通算5作目のスタジオ・アルバム。シングル"Goin' Crazy"でのロビー・ウィリアムス他、ジェシー・J、ショーン・キングストンなどバラエティに富んだゲスト陣がラインナップ。
ユニバーサル
発売・販売元 提供資料(2013/06/07)
独立して最初に放ったカルヴィン・ハリスとの“Dance Wiv Me”(2008年)で初めて全英チャート首位に輝き、その勢いを受けて登場した4作目『Tongue N' Cheek』(2009年)からはアーマンド・ヴァン・ヘルデン製の“Bonkers”、ふたたびカルヴィンと手を組んだ“Holiday”、そしてリパッケージ盤の看板となった“Dirtee Disco”といったシングル群がすべて全英1位に昇り詰めるという異常ヒットを記録。日本ではXLに残した3作品の印象が強いという人も多いだろうが、もはやUKガラージ/グライムを下地にしているという前提に触れても説明がよけい面倒になりそうなほど、XL離脱後のディジー・ラスカルはUKを代表する国民的ラッパーという地位に君臨している。その頃のディジーの動きが後進のチップマンクやティンチー・ストライダー、あるいは古巣のロール・ディープといった面々のポップな取り組みを誘発したのは間違いないし、少なくともこの時期のラッパーたちによる意欲的で下世話な成功劇がなければ、ラブリンスやノーティー・ボーイのような作り手の台頭もなかっただろう。そうやって本国のシーン風景を変えたという意味ではもちろん、ブラック・アイド・ピーズによってアーバン×EDMな動きがトレンドとなる前から、彼らの享楽的な路線が確立されていたということは強調しておきたい。以降の彼はロンドン五輪開会式でのパフォーマンスで脚光を浴びる一方、『Dirtee TV.com』シリーズのミックステープでは出自に近いグライム~ベース寄りの作風を披露。並行してチェイス&ステイタスやDJフレッシュとのコラボも経験し、ジェシーJのヒット“Wild”に客演していたのも記憶に新しいだろう。そんな状況下で登場した4年ぶりのアルバムこそ、新たにアイランドと契約した初のメジャー作品『The Fifth』である。今回メイン格を張るフリー・スクールのトラックはディジーならではのスピット炸裂を引き出すダンス・トラック。特にベース・ヘヴィーな“I Don't Need A Reason”にはデビュー時から変わらない主役の凄みが凝縮されている。そうした楽曲とロビー・ウィリアムスを招いた超キャッチーな先行ヒットの“Goin'Crazy”や新進のエンジェルが歌う“Good”のような英国的ポップソングがバランス良く並んでいるが、全体の印象を引っ張るのは、ジェシーJがお返し参加した“We Don't Play Around”をはじめとするレッドワン軍団製の世界対応型ユーロ・ポップだ。ショーン・キングストンのフックが某“Bad Romance”に似すぎな“Arse Like That”、軍団のテディ・スカイが雄大な歌唱を差し込んだバキバキの2曲などではディジーならではの妙味はやや薄れるものの、前作以上の広がりを狙う本作には欠かせない要素なのだろう。その傍らで、A・トラックのビートにXL時代からのUSコネクションとなるバンBとトレイ・ザ・トゥルースを迎えたドープなヒップホップ“H-Town”もあるし、結びにはミックステープで披露していたMJコール作の“Bassline Junkie”もボーナス収録。どこにでも行ける自由さを改めて実力で裏付け、いささか欲張り気味ながらもインターナショナルな要請に応えんとしたポップな快作だ。今回も下世話で最高!
bounce (C)出嶌孝次
タワーレコード(vol.360(2013年10月25日発行号)掲載)