フィニス・アフリカエは、ヌエストロ・ペケーニョ・ムンドというバンドで成功したホワン・アルベルト・アルテシェ・グエルが1980年代初頭に組織したユニットであり、固定メンバーを持たず、作品性を重視したスタジオ・プロジェクトである。ミステリアスに響くグループ名はウンベルト・エーコのミステリー小説『薔薇の名前』に登場する秘密の書庫に由来する。
(「アフリカエ」はヨーロッパでの「アフリカ」の古称。「フィニス」を付けると最果ての地、未知の場所といったニュアンスが生まれる。)
フィニス・アフリカエの発端はアルテシェが4トラックのオープンリール・レコーダーを購入したことで、徒然に音を重ねて宅録をしていく過程で膨らんできたインスピレーションを、友人のサポートを得て楽曲に定着させていった。その成果を『Prima Travesia(英題:First Journey)』(1984) にまとめ地元の新進レーベルGrabaciones Accidentalesから発表。次いで同路線で2ndの『Un dia en el parque (A Day in the Park) 』(1985) を作り、レコーダーを16トラックにヴァージョン・アップして更に複雑に音を編み込んだ『Amazonia』(1990) を制作。その後も数年ごとにアルバムを録音しライブ盤1枚を含む計7枚を発表した。
フィニス・アフリカエの音楽は、アフリカ音楽の影響をたたえつつ、具体音、現代音楽、NEW WAVE風ダンス・ミュージック、そしてスペインのフォークロア感覚が、実験性を保ちながら独特のコンビネーションを展開するもので、その世代感覚を超越したような音を聞けば、現在の音楽フリークやDJ達に再発見されている事実も十分頷ける。また数多くの楽器を駆使して極めて繊細に作り込まれた音は、アフリカ音楽とヨーロピアン・トラッドを折衷したような美的感覚と精神性を宿している。(なお、シンセサイザーを用いた一部の音作りの傾向からニューエイジ・ミュージックと呼称される場合もあるが、アルテシェ自身はニューエイジャーではない)
発売・販売元 提供資料(2020/11/11)
ニューウェイヴかつニューエイジというか……一言では形容し難いタイプのユニットによる、世界初の編集盤。汎欧州トラッドとアフリカ音楽を影響源に、多様なエレクトロニクス、瑞々しい生楽器、さらに鳥のさえずりなど自然音を幾層にも重ねていった音像は唯一無二だ。フランコ政権が崩壊し、80年代前半にかけてさまざまな音楽が流入してきた当時のスペインならではな、自由な感性に満ちたスピリチュアル・グルーヴ盤!
bounce (C)北爪啓之
タワーレコード(vol.355(2013年5月25日発行号)掲載)
今年の私的ベスト。様々な音楽冒険家の作品をリリースしてきたemレコードによる世界初のコンピ!『薔薇の名前』の作中よりグループ名を冠した彼らの音源は、例えるならゆる~い『ブッシュ・オブ・ゴースツ』、また細野さんの「観光音楽」を連想。プリミティヴなアフリカン・グルーヴとヨーロピアン・ニュー・ウェーヴを電子変調と編集でスピリチュアルに昇華させた…心地良いのにドキワクな胸騒ぎがおさまらない!!
intoxicate (C)水上渉
タワーレコード(vol.103(2013年4月20日発行号)掲載)