フリー・フォークの貴公子、"デヴェ様"ことデヴェンドラ・バンハート。アパラチアン・スタイルのフォークからトロピカリズモ系ブラジル音楽まで、あらゆるジャンルからも自由に解放されたシルキーな歌声とアコースティック・サウンドで音楽的放浪を続けている彼が、今作の家にと決めたのが、ニューヨークのノンサッチ・レコーズ。今作『Mala』もデヴェ様らしく、国境やジャンルといったものから解き放れた作品が並んでいる。アルバム・タイトルの『Mala』はセルビア語で"小さい"を意味し、また東ヨーロッパでは親愛の意味を込めた口語として使われることもあるそう(余談だが、彼の婚約者で写真家でもあるアナ・クラス(Ana Kras)が彼に贈った指輪にこの文字が彫られており、そこからアルバムタイトルのインスピレーションを受けたそうだ)。また収録曲の「Mi Negrita」では、スペイン語で歌っているデヴェ様だが、スペイン語のほうが、英語より自由に言葉の持つ音に入り込めるし、より遊べ、さらにより自伝的にもなれるとのこと。ちなみに"Mala"はスペイン語では「Bad」の女性系を意味するらしい。さらに婚約者のアナ・クラスとのデュエットでは、アナが英語からドイツ語へ歌い継いでいる。更にアルバムには、ダンスフロアーで孤立する若者を歌った「Golden Girls」や古代の異教の儀式からタイトルをとった「Taurabolium」など、ややダークなテーマの曲もあるが、全体的には陽気でいたずらっぽいユーモアにあふれた作品が連なる。例えば、ノスタルジックな「Daniel」から12世紀のカトリックの神秘家兼作曲家ビンゲンのヒルデガルトをテーマにした「Fur Hildegard von Bingen」では、曲の主人公であるヒルデガルトがもしも現代に生き、全盛期のMTVのVJをVHSビデオでみたらきっと"これだ"って思うに違いないと、彼は頭のなかで短編映画を作りあげている。どの曲も真摯で誠実でありながら、ユーモアのセンスは忘れていないのである。デヴェ様にとって、自身のキャリアはこれまでと同様「冒険であり実験である」。そして『Mala』では、彼のスタイルの自然な成熟を見ることが出来る。ミニマルな空間から生まれた無限に自由な音楽。また新たな高みへと解脱した"デヴェ様"のオーガニック・サウンドに我々は追いつけるのか?!
発売・販売元 提供資料(2013/02/19)
フリー・フォークの放浪息子が4年ぶりに俗世へと帰還。前作のバンド・スタイルとは異なり、気の合う相棒のノア・ジョージソンと自宅にこもってほぼ2人で演奏したり、飯を食ったりして完成させた〈俺度〉の高いアルバムだ。トロピカリズモやエレクトロニカも自由に咀嚼した国境なきアシッド・サウンドと、コチョコチョくすぐられているような気がする奇妙な歌??いつにも増して生々しく蟲惑的なデヴェ様を感じられる。
bounce (C)北爪啓之
タワーレコード(vol.354(2013年4月25日発行号)掲載)
ノンサッチ移籍後初となる、デヴェンドラ・バンハート4年振りの新作。可能な限り虚飾を排し「Mala」(セルビア語で“小さい”という意味らしい)な世界を構築、静謐なのにざわついた、白昼夢の如き狂気を孕んだその空気。制作途中で放り出されたような、デモ同然の曲から放たれる怪しい魅力。あまたある音響系フォークとは一線を画す、まさに天才の所業。バート・ヤンシュやテリー・キャリアー、淺川マキらに捧げられている。
intoxicate (C)杉山文宣
タワーレコード(vol.103(2013年4月20日発行号)掲載)