サーストン・ムーアとキム・ゴードンの離婚によって、現在活動休止中のソニック・ユース。昨年、リー・ラナルドが口火を切ってソロ作『BetweenThe Times & The Tides』をリリースしたが、ついにサーストンが新バンドのチェルシー・ライト・ムーヴィングを結成し、ファースト・アルバム『Chelsea Light Moving』を完成させた。そういえば昨年、キムとオノ・ヨーコとの3人でドロドロの即興セッション盤『Yokokimthurston』を発表していたけれど、きっとそこでみそぎは済ませたに違いない……と思わせるくらい、本作でのサーストンは吹っ切れている。彼を支えるのは、シンガー・ソングライターとして活動するサマラ・ルベンスキーをはじめ、キース・ウッド(ハース・アーバーズ)、ジョン・モノリー(サバーバンド・ハンド・オブ・ザ・メン)の3人。各メンバーはサーストンが主宰するエスタティック・ピースから作品を出していて、それぞれフリー・フォーク~アヴァンギャルド・シーンで注目を集めてきたミュージシャンだ。バンドを引っ張るのはもちろんサーストンで、民主的だったソニック・ユースよりリーダーとしての立場は鮮明。『No New York』的な歪んだパンクや、サーストンのソロ・アルバムを思わせるサイケデリックなナンバーなど、濡れた犬が身体を震わせて水気を払うように、30年に渡る音楽活動で吸収した音を手当たり次第に吐き出し、身軽になろうとしている姿が透けて見える。ここにあるのは彼が一筆書きで描き出した新バンドの青写真。フレッシュで向こうみずで、これ以上ないデビュー作だ。
bounce (C)村尾泰郎
タワーレコード(vol.352(2013年2月25日発行号)掲載)
サーストン・ムーアの新プロジェクト、チェルシー・ライト・ムーヴィングが初作『Chelsea Light Moving』をリリースする。ご存知の通り彼の音楽性はかなり広範囲で、これまでソニック・ユースに対し、ソロではノイズの系譜にある実験的な楽曲を披露していて、ポップであってもパーソナルな色を濃くしたものであるという、大まかな棲み分けがされていた。それを踏まえて言うと、今作はソロ作品というより、ソニック・ユースに代わるバンドとして位置付けられるのではないだろうか。具体的には、88年作『Daydream Nation』あたりで確立した、揺らぎがありつつもアグレッシヴな彼独特のギター・サウンドを、楽曲中でクールに主張しているのだ。ミニマルなギター・フレーズにノイズを絡めていくセンスは、大筋としてヴェルヴェット・アンダーグラウンド~テレヴィジョンのようなNYアンダーグランド直系の流れがありながらも、これまでのキャリアで蓄積されたものと、持ち前のリスナー気質とが合わさって噴出した……なんて印象を受ける。また、サーストンの音楽的な影響源──バロウズ、ロッキー・エリクソン(13 thフロア・エレヴェーターズ)、ダービー・クラッシュ(ジャームス)──をわりと率直に歌のテーマとして入れ込んでいるあたりも微笑ましい(ジャームスに至っては名曲"Communist Eyes"のストレートなカヴァーまで演っている)。このぶんだとソニック・ユースの活動再開はまだまだ先になりそう?
bounce (C)吾郎メモ
タワーレコード(vol.352(2013年2月25日発行号)掲載)