2008年の『Blood Looms And Blooms』で、8年の沈黙を破って音楽シーンに復帰したレイラことレイラ・アラブ。トリップホップや初期エレクトロニカを背景に90年代末のロンドンでリフレックスからデビューを飾り、リチャードD・ジェイムズがプロデュースを手掛けた初作『Like Weather』から早14年。シーンのトレンドは移り変われど彼女に寄せられる評価や期待は変わらず、昨年は長年の友人であるビョークの最新作『Biophilia』にも参加した。そんな彼女の4年ぶりとなる新作『U & I』は、前作に続いてワープからリリースされる通算4枚目のアルバムになる。「今回の作品は無駄をなくしたダイレクトな形に仕上げたつもりだから、最後まで聴くとところどころに散りばめてあるエモーショナルな部分がより鮮烈に感じられると思うの」。そう語る彼女が今回の創作パートナーに迎えたのはマウント・シムズ。DJヘル主宰のジゴロからのリリースで知られる気鋭のサウンド・プロデューサーだが、その彼を今作ではシンガーとして起用。サウンド面の主導権は彼女が握り、「彼がマイクの前に立ってあたしがミックスするという役割分担」の下でコラボレーションが進められた。果たして『U & I』は、彼女のディスコグラフィーでもっとも「ダダイスティック」な作品に。“In Consideration"のダーク・アンビエントなゴスペルや“All Of This"のダビーでコズミックなR&B、“(Disappointed Cloud)Anyway"の奇矯なバングラ・ポップなど刺激的で趣向を凝らしたヴォーカル・ナンバー。一方、“Interlace"の「人間の不条理をモチーフにした殺戮のような」インダストリアル&ハーシュ・ノイズや“Boudica"の猥雑なディスコ・ポップといった挑発的なトラックが並ぶ。なかでも白眉は、レイラ流のチョップド&チップ・チューン“Activate I"だろう。「あのトラックでみんながレイラから期待するものを見事に裏切ってやったと思う。ノイズや可愛い感じの曲、楽しい雰囲気の曲の間にカオスを入り混ぜて、突然精神的プレッシャーがかかるような曲で驚かせたかったのよ」。両親と死別した喪失感のなかで制作された前作。対して『U & I』は「自分がこの10年間で重ねた辛い個人的な経験への反応として生まれた」と語る。結果、今作は新たなレイラ像を提示する作品となった。彼女の次のディケイド-- 2010年代はここから始まる。
bounce (C)天井潤之介
タワーレコード(vol.340(2012年1月25日発行号)掲載)