新しき「スタンダード」に酔え! 新鮮にして絶妙なる選曲がもたらすピアノ・ジャズの快感。トヌー・ナイソーのセンスをご堪能あれ! いきなりチャカ・カーン“Through the Fire”(いや、デイヴィッド・フォスターと言うべきか?)ですよ。なんちゅう選曲! タイトルの『FIRE』は、このオープナーとドアーズのサイケ・クラシック“Light My Fire”から来ているそうな。それにしても毎回楽しませてくれます。1960年代以降のポップ・チューンはトヌーにとって文字通りの「スタンダード」なのだ。それは我々の感覚とぴったり重なるところでもあり、それゆえ聴いていてかくも心地良いのだろうか?収録された9曲中、自身も含めてジャズマンのオリジナルは4曲。それも勿論良いのだけれど、残る5曲にこそトヌーらしさが炸裂している。文句なく楽しい。ミュージカル『HAIR』の劇中曲、と言うより、ファンク・チューンとして有名な“Coffee Cold”、ジャネット・ジャクソン(!!)の“Come Back to Me”、そして、我が坂本龍一の極めつけである“Merry Christmas, Mr. Lawrence”。選ばれたどの曲も美しく魅力的なメロディを持ち、それをまたなんとも鮮やかにcookしてみせてくれる。いつも思うことだけれども、トヌー・ナイソー、センスが抜群。“Light My Fire”は、有名なイントロを「後出し」にして、ヴォーカル部分の頭から入って来るし、“Coffee Cold”では本家のガルト・マクダーモット以上にベースを効かせて黒っぽさを押し出す(ゴキゲンです)。“Merry Christmas, Mr. Lawrence”では、つぶやくような導入部から静けさに満ちた世界が広がり、聴く者を打たずにはおかない。これだけヴァラエティに富みながら、ちゃんと統一感もある。離れ業めいた内容ではあるまいか?もうひとつ。録音が良い。特にベースだ。「頑張ればこんな音が録れるんだ…」と思ったりする。ここまで読んでこれを入手しないアナタ、どうかしてますよ。(Text by 北見柊: ライナーノーツより)
澤野工房
発売・販売元 提供資料(2012/11/27)
手を出せば捕まえられそうな程の音色が、まさに「見える」かのような美しい音のシャンデリアとなって、温かな明かりで周囲を照らすチャカ・カーン《スルー・ザ・ファイア》から、ラストの坂本龍一《戦場のメリークリスマス》まで。全ての音をコントロールし自分のモノとする様は、相変わらず流石。今や多くの人が知るまでに澤野工房を伸し上げてきた澤野第2世代にあたるトヌー・ナイソー・トリオ。もし未体験なら是非!
intoxicate (C)谷口誠
タワーレコード(vol.102(2013年2月20日発行号)掲載)