アルカント・カルテット、注目の新譜!
心に突き刺さるシューベルト
冒頭のハーモニーからただならぬ凄味
ケラス率いる豪華メンバーによるアルカント・カルテット、待望の新譜はシューベルトの最高傑作、弦楽五重奏曲。ケラスの高弟オリヴィエ・マロンを第2チェロに迎え、心に刺さる冴えまくった名演を展開しています。
第1楽章冒頭、心に突き刺さるような、研ぎ澄まされたハーモニーから、この演奏のただならぬ凄味を感じます。シューベルト独特の、うつろいゆく気分、哀しみと喜びが共存するような表情をもらさずとらえており、圧巻。続く第2楽章では極限の集中と柔和な表情のバランスに、彼らの冴えたセンスが光ります。第3楽章スケルツォの一気呵成に聴かせる絶妙に軽快なテンポ設定はさすがです。5人の音色が風のように駆け抜けます。終楽章は聴きもの。
執拗に繰り返されるシンコペーションのリズムが浮き彫りにするシューベルトの心の闇、そして終幕の駆け上がるパッセージと最後の和音は何とも悲痛な叫びのように、聴き手の心に刺さってきます。この作品の意外性を存分に聴かせると共に、シューベルトの心の闇にもくまなく光を当てた、注目の演奏といえるでしょう。第2チェロを担当するオリヴィエ・マロンも、エッジの効いた音色で本質にズバっと切り込むアルカント・カルテットの面々の音色に見事に融け込んで、時に甘く時に悲痛に、美しい低音を響かせています。レコード・アカデミー賞(銅賞)を二年連続で受賞するなど、日本で、そして世界中でもますます高い評価を得ているカルテットの、危険といってしまえるかもしれないくらいに鋭く心に刺さる演奏に、心して向き合いたい一枚です。
=オリヴィエ・マロン=
1980年フランクフルト生まれ。リヨン音楽院にてジャン・デュプラスに、そしてシュトゥットガルトでジャン=ギアン・ケラスに師事。2004年7月、J.S.バッハコンクール(ライプツィヒ)で1位。ジュネーヴの現代音楽アンサンブル「アンサンブル・コントルシャン」に所属、ブーレーズら20-21世紀の現代作品の演奏にも積極的に関わっている。2009-11年にかけて、ケラスのアシスタントとしてドイツ国立シュトゥットガルト音楽大学にて教鞭をとる。
キングインターナショナル
発売・販売元 提供資料(2012/06/11)
一言で言えば、全くスキのないとんでもない完成度を誇る演奏(完璧すぎる?)。それに、表現の振幅が実に大きい(第3 楽章のトリオとスケルツォのダ・カーポの対比!)。このクァルテットの凄いところは、ソロ奏者が4人揃っているにも関わらず見事に調和しており、かつその中でもそれぞれが伸び伸びと振舞っている点。ある意味離れ業であろう。ここではさらにケラスの高弟であるマロンが参加しているが、5人目のアルカントのメンバーか、と言うくらいに溶け込んでいる。
intoxicate (C)藤原聡
タワーレコード(vol.99(2012年8月20日発行号)掲載)