2011年秋に発表されたDJヴァーマンのミックステープ『Bump From The TrunkVol. 1』がなかなかおもしろくて、ディプロの超ミックス名作『Fabriclive 24』に比肩するほどではないものの、〈ベース〉をテーマにリル・ジョンから2ライヴ・クルー、グッチ・クルー、ベースネクター、大沢伸一、果ては“Like A G6”のダブステップ・ミックスまでもが自在に織り合わせられていた。ともすれば気の利いた新しい形容としてここ数年使用されてきた〈ベース・ミュージック〉という言葉ではありますけれども、ヒップホップのなかで昔から連綿と続く〈ベース〉の系譜は変わらず流れ続けているんですな~と思っていたら、ファー・イースト・ムーヴメントの新作タイトルは『Dirty Bass』。タイガを迎えた冒頭のタイトル・トラックからして、上昇と下降を繰り返すベースの不穏な運動ぶりだけでメシが何杯でも食えるほどのヤバい楽曲に仕上がっている。一方で、チェリートゥリー産らしい幕の内的なアルバム構成は今回も踏襲されている。日本のCrystal Kayからバルバドスのカヴァー・ドライヴ(UKで大ブレイク中!)まで国際色豊かなゲストを招き、レーベルメイトではナタリア・キルズとカナダのマイ・ネーム・イズ・ケイ、LMFAOもリミックスで登場。ジャスティン・ビーバーを迎えたリード・シングル“Live My Life”のようにここ数年のスタンダード的な作りのダンス・トラックを中心にしつつ、本場からシドニー・サムソンらを招聘して腰の入った本気のダーティー・ダッチを披露したり、YGとベース・ヘヴィーなLA印のコラボをかましたり、キャシーとのエレポップではUKガラージ的なベースを装填したり、好奇心旺盛な雑食の音楽性は相変わらずだ。前作以上に一枚を通しで聴かせるパーティー・ミックス的な作りでもあるし、表題通りのダーティーな楽しさに理屈抜きで興奮しまくるのが正解!
bounce (C)出嶌孝次
タワーレコード(vol.344(2012年5月25日発行号)掲載)
マーチング・ドラム風のビートも印象的なオープニングのベース・チューンを聴いただけで、確信が持てました。ファー・イースト・ムーヴメントのニュー・アルバムは、2010年の出世作『Free Wired』以上に下世話で軽薄で楽しい一枚だってことを! 思えば、ライアン・テダーをフィーチャーした“Rocketeer”が昨年2月に全米TOP10入りし、一発屋じゃないことを証明した直後、絶好のタイミングで〈SPRINGROOVE〉に乗り込んでくれるはずがあえなく中止に。そんなこともあって、FMに対する欲求不満な状態が続いていたわけですよ!で、イコライザーの設定が狂っているのかと勘違いしてしまうくらい、低音がトゥー・マッチ(褒め言葉)なことは『Dirty Bass』というタイトルからも想像できる通り。“Little Bird”や“Flossy”あたりの曲で昨今のインディー感覚を吸収したモワモワな音を展開するなど、決してブチアゲ一辺倒というわけではないのに、前作からさらに強化されたダーティー・ダッチ路線のインパクトがどうにも凄くてね(例えば、合いの手風のホイッスルがバカバカしすぎるカヴァー・ドライヴとの“Turn Up The Love”とか!)。ついでに、曲間が短くてミックスCDみたいに次から次へと耳&ケツを攻撃してくるんだもの、思わず半裸で踊り出したくなっちゃうじゃないですか! ジャスティン・ビーバーやビル・カウリッツ(トキオ・ホテル)、ピットブルなどゲストの名前を借りずとも、この夏『Dirty Bass』が〈SONICMANIA〉を含む世界中のパーティーをロックすることは間違いないでしょう。最高!
bounce (C)山西絵美
タワーレコード(vol.344(2012年5月25日発行号)掲載)