2012年2月のメンバー脱退により、4人組となった新生ハイスイノナサ。その困難を経て届けられた初のフル・アルバムは、これまでの集大成と呼ぶに相応しい、素晴らしい作品となった。ポストロック~エレクトロニカから現代音楽までを横断する高い音楽性に裏打ちされた、緻密な建築物のようなサウンド・デザインはさらなる洗練を見せ、曲調の広まりは過去最高に。また、本作ではボーカルの存在感が強まり、歌が全面に押し出されたいくつかの楽曲では鎌野愛の表現力の深まりが確認できるし、一方では声を素材として扱うことで、これまでになくボーカルと演奏が溶け合っているのも印象的だ。Corneliusとのコラボレーションで声の持つ身体性を提示したsalyuや、グラミー賞を獲得したBon Iverに代表されるUSインディ・シーンの自由な実験精神ともリンクする感覚が、本作には間違いなく存在している。「インターネットが文化として定着し、意識だけが巨大に、表面的に拡張している現代社会において、希薄になっていく身体感覚と変化しつつある人間の心に焦点を当て、それを都市や地下鉄などの人工物と、動物や森などの自然物を対比または同化させて表現し、これからの人間と文化の関わり合いの形を浮かび上がらせようと試みた」という照井順政の言葉に象徴されているように、彼らの作品からは単なる音楽にはとどまらない、アートと社会との関係性に対する高い意識がうかがえる。時代がますます閉塞感を強める中、それを打ち破るのは表面的な音楽ではなく、こういった芯のある音楽であることを信じたい。
発売・販売元 提供資料(2012/04/04)
メンバーが脱退して4人組となった彼ら初のフル・アルバム。ミニマルなビートにクラシカルなピアノ、歌というより声をコラージュした“地下鉄の動態”などのポスト・ロック曲や、メロディーを重視した“波の始まり”、テクニカルな高速ギターと乱打される変則ドラムのメタリックなサウンドに可憐なウィスパー・ヴォイスを乗せた“logos”と、静と動が鮮やかに描かれている。今回も映像喚起力の高い、聴き応えのある内容だ。
bounce (C)山村真琴
タワーレコード(vol.344(2012年5月25日発行号)掲載)