ブラジルMPBを象徴する女王ガル・コスタ。タイトル「RECANTO」(退却)とは、久々にスタジオ・レコーディングで表舞台に戻って来た状況とは裏腹に、意味深なものだが、注目はその中身にある。今回、彼女がテーマに選んだのは、キャリアを通じて常に傍らに存在位置づけている朋友カエターノ・ヴェローゾなのだ。振り返れば、傑作「DOMINGO」以来、トロピカリアやMPB黄金期の70年代から現在に至るまで、ガル・コスタとカエターノの蜜月世界がブラジル音楽の一つのコモンセンスといえる。円熟期を迎えたガル・コスタが、再びカエターノを綴ることで自身の今を表わす・・・そんな意図の元に完成した。ここでガルが綴るカエターノ楽曲は、すべて彼女の歌では初収録となる全11曲。#7"MADREDEUS"は、2005年にグルーポ・コルポのバレエ舞台サントラ「ONGOTO」に収録された楽曲をリメイクした注目トラック。そして#8"Mansidao"は、女性シンガー、ジャネ・ドゥボッキの82年作品にカエターノもゲスト参加したトラックを、ガルが初めて取り上げたハイライトだ。この2曲の他は、カエターノの書き下ろしによるもので、ガルにしか出せないカエターノの世界観を綴った好トラックが並ぶ。カエターノと共にプロデュースを手掛ける息子モレーノ・ヴェローゾが指揮する効果的なエレクトリズムと、ガルのビロードの美声が重なり、絶妙な音像を残しているのが印象的だ。カエターノという媒体を通して、深みを増すガル・コスタの表情と真意。彼女が目指す先にあるものを、この1枚からブラジル・ファンに味わって頂きたい。
発売・販売元 提供資料(2011/12/16)
66歳となった元祖MPBの女王が、盟友カエターノの曲(全11曲中9曲が未発表!)を歌うというコンセプト作品で、プロデュースはカエターノ&モレーノ親子が担当。ちょっぴり刺激的な最新MPB路線かと思いきや、予想を大きく裏切る問題作となっています。カシンによる妖しげなノイズと意外な発想に満ちた、得体の知れないダークでくぐもった〈間〉の多いエレクトロニカな音像と、そこに気まぐれ(?)っぽく絡みつくペドロ・サーの鋭角な変態ギターとが作り出すエキセントリックなサウンドにビックリさせられ、さらに不気味ささえ醸し出す抑制の利いたクールなガルの歌唱にもビックリ。第2世代も巻き込んだ、不穏な時代の雰囲気を反映させたトロピカリズモ作品とも捉えられる、過激な一枚です。
bounce (C)ダイサク・ジョビン
タワーレコード(vol.342(2012年3月25日発行号)掲載)
プロデュースを手がけたカエターノ&モレーノ親子の前衛実験趣味全開のアブストラクトでアトモスフェリックなサウンドプロダクションに、時として無機質に加工され素材の一部として機能するガルの歌声。これはジェイムス・ブレイクやドレイクといった先鋭的なポップ・シーンのトレンドといえる〈遅くて緩い音〉=ダウンテンポへのブラジルからの回答といえる、鋭い感性に貫かれた音楽。見事に尖ってみせたガルの快心作。
intoxicate (C)山本康貴
タワーレコード(vol.96(2012年02月20日発行号)掲載)