バーバーの名曲「弦楽のためのアダージョ」 オリジナル弦楽四重奏版全曲収録
ライヒの名曲「ディファレント・トレインズ」新録音。しかもテープはライヒ立ち会いのもとの新制作!
ジョージ・クラムが描く音による幽霊
ヨーロッパ席巻中の新興弦楽四重奏団、ディオティマ弦楽四重奏団による大変魅力的な1枚の登場。バーバーにライヒ、そしてクラムの作品集です。バーバーの弦楽四重奏曲の第2楽章はあの「弦楽のためのアダージョ」原曲(バーバー自身が編曲した、「アニュス・デイ」の歌詞による無伴奏合唱版も知られています)ですが、弦楽四重奏での録音(しかも全曲)は極めて珍しいでしょう。弦楽四重奏は若手作曲家にとっては近づきがたいジャンルですが、バーバーは若いころからこのジャンルにも積極的に取り組んでいました。初めて出版されたバーバーの作品は、弦楽四重奏のための「セレナーデ」(1928年作曲、44年に改訂された弦楽オーケストラ版で演奏されることが多い)でした。ほかに弦楽四重奏のための作品には、ドーヴァービーチop.3(1931年、バリトンと弦楽四重奏のための)があり、そしてこのロ短調op.11が続きます(1936-38作曲、43年改訂)。巨匠トスカニーニはすぐにこの作品(特に第2楽章)に着目し、1938年11月5日に弦楽オーケストラのために編曲したかたちでアダージョを放送、1942年に録音もして、一挙にこの作品の人気に火がつきました。ケネディ大統領の葬儀や映画などでも広く使われたこの名曲、弦楽オーケストラで聴く濃厚なアンサンブルと激しい慟哭はもちろん魅力ですが、弦楽四重奏で聴くと高音で展開されるアンサンブルのハーモニーの美しさがひとしお心に響きます。全楽章通して聴ける、貴重な盤の登場です。
ライヒの「ディファレント・トレインズ」は、話し声・サイレンの音などを録音したテープと、弦楽四重奏のために書かれたライヒの代表作。1988年作曲、89年のグラミー賞最優秀現代音楽作品賞を受賞、一世を風靡しました。ミニマルミュージックの代名詞ともいえる名曲です。1940年頃、まだ幼かったライヒは、離婚した両親を訪ねるたびにしばしば汽車でアメリカ大陸を旅しました。当時は汽車旅を楽しんでいたライヒですが、大人になってふと「もし自分があの当時ヨーロッパにいたなら、ユダヤの血をひく自分は、まったくちがう列車(ディファレント・トレインズ)に揺られてゲットーに連れて行かれたかもしれない」と語っています。機関車のシュシュシュシュというリズムや汽笛のような音色は楽器が担当。テープに録音された途切れ途切れの「シカゴからニューヨークへ」「ニューヨークからロサンジェルスまで」「1940」というセリフなどが常に耳に残ります。このテープは、古い音素材からの抜粋が中心となっていましたが、この度ライヒの立ち会いのもと、新たに制作されました。ディオティマ弦楽四重奏団が奏でる音色は非常に機械的なもの。しかし、ライヒ独特の人間味に満ちたミニマルの書法のせいか、まったく違和感なく耳に響きます。列車に一人ゆられてぼんやり座っていて、ふと別世界に入り込んでいくような不思議な旅へ、ライヒとディオティマのメンバーが仕立てた素敵な列車で是非ご一緒に。
キングインターナショナル
発売・販売元 提供資料(2011/08/31)
クラムの作品は、「7」「13」というふたつの数字をキーに展開され、黒ミサのような秘密めいた儀式のようなもの。13の楽章から成り、ちょうど7曲目を中心として鏡のような構造になっています。弦楽四重奏が奏でる不思議な音色が音楽の亡霊を呼び覚まし(イメージ的には「アダムス・ファミリー」テーマのホヨヨヨの音)、なんとも奇妙な世界が繰り広げられています。
ジャケット写真はスタンリー・キューブリック監督撮影の写真。どこまでも「アメリカ」にこだわりぬいた意欲的かつ大変魅力的なアルバムとなっています。
キングインターナショナル
発売・販売元 提供資料(2011/08/31)
20世紀といえばアメリカの世紀と言っても過言ではなく、当然音楽の分野においてもそれは他聞に漏れない。が、じゃあその 「代表格は?」と言われると殊クラシックにおいては?マークが浮かぶ人へ持って来いな一枚の登場。現在流行の音楽の〈下敷き〉ライヒの傑作も然る事ながら、聴き処はバーバーの弦楽四重奏曲。第2楽章はかの《弦楽のためのアダージョ》の原作となった曲だけに聴き応えは最高の類。
intoxicate (C)大場健
タワーレコード(vol.94(2011年10月10日発行号)掲載)