フェラ・クティの末の息子、シェウン・クティの新作が登場した。3年前の前作も傑作の声が高かったが、今回はそれを上回る強力な作品に仕上がった。 本作はブライアン・イーノをプロデューサーに迎えたブラジル録音。ティナリウェンのプロデュースでお馴染みのジャスティン・アダムズもギターで参加している。イーノといえばしばしば自己主張の強いプロデュースをするので、聴く前はアフロビートが本来持つパワーを減殺するのではないかという不安もあったのだが、結果は上々だ。 ここ数年はアフロビートが大きなムーヴメントとなり、アフリカ以外の国からも多くのアフロビート・バンドが生まれている。フェラ・クティが作り上げたアフロビートという遺産が今の時代に受け継がれていくことは喜ばしいし、意義もあると思うが、正直に言ってフェラを超えるものにはまだ出会えていない。しかし本作を聴けば、やはり血は争えないな、と納得せざるを得ない。別格だ。前作はヴォーカルが少し弱いかな、という気もしていたのだが、今回はそれもまったく感じなかった。 サウンドの迫力も申し分ない。現在はフェラが活躍した時代に比べてレコーディングの技術も格段に進歩している。アフロビートのように数多くの楽器が使用されるサウンドの場合、それぞれの楽器の音はクリアに録れるし、分離の良さも比べものにならないだろう。だがその分、フェラの諸作で感じられたオーケストラの音が塊となって迫ってくるようなあの凄味を出すのは、逆に難しいとも思える。それをここまでの迫力あるサウンドに仕上げたのは、やはりイーノの手腕なのか。前作はマルタン・メソニエがプロデュースを務めていたし、名エンジニアのゴドウィン・ロギーも引き続き参加。そういったヴェテランにサウンド・プロダクションを任せるというのは、なかなか鋭いといえるかも。 いずれにしても、21世紀に発表されたアフロビートとしては最高峰の1枚だ。
intoxicate (C)篠原裕治
タワーレコード(vol.92(2011年6月20日発行号)掲載)
フェラ・クティの末子が3年ぶりの2作目をリリース。フェラとの仕事歴もある学究肌のマーティン・メイソニアが後見した前作『Many Things』は、ある種の<ワールド・ミュージック>的な側面から遺父の王道を継承したものだったが、今回はシェウン本人がブライアン・イーノ&ジョン・レイノルズと共同プロデュースにあたっている。馴染みのレオ・エイブラムスらを従えてイーノが音に直接タッチした痕跡はあるものの、現行アフロビート・バンドにも通じるタイトでスッキリした風合いに全体がオーガナイズされたのは、むしろ主役自身のカラーが濃く出た結果なのではないか。古参のルーカン・アニマシャウンを軸にしたエジプト80の演奏も、非常にオーセンティックという意味で極めてモダン。熱気に溢れた力作だ。
bounce (C)煌ひろみ
タワーレコード(vol.332(2011年5月25日発行号)掲載)