アカ・セカ・トリオのピアニストとして才覚を顕し、ソロ作『Dos Rios』への賛辞も止まないアンドレス・ベエウサエルト、デビュー作『Inteira』で限りなく透明な歌声を披露したタチアナ・パーハ、いまをときめく2人のインティメイトなデュオ作。サンクチュアリへは“ここ(Aqui)”からどうぞ。アカ・セカ・トリオといえば、いまやアルゼンチンのモダン・フォルクローレ&ジャズ・シーンの代表格。イタリアからの編集盤の発売、上海万博への参加と、その活動はじわじわと南米を飛び出しはじめ、人気は高まるばかり。ピアニストのアンドレスにいたっては、ソロ作の成功により、さらに注目される存在だろう。「タチアナはとてもカリスマティックなシンガー。彼女とのデュオ作はずっと前から作ってみたいと思っていたんだ」そんなアンドレスの夢が叶ったのが本作。繊細なタッチでうっとりするような美しい風景をダイレクトに映写するアンドレスのメロディ。その描かれる世界をさらに開放しながら、時にスキャットを交えつつ、ぴったりとピアノに寄り添い歌うタチアナ。ふたりはまるで大空を自由に翔ける、つがいの鳥のよう。それもそのはず、アンドレスとタチアナはシーン公認の恋仲、サンパウロとブエノスアイレスの距離などものともしない。それにしても、まるで音楽が音楽を呼んだかのように結ばれたふたりなのではないかと思うほど、ふたりの音色は相性がいい。まさに“完璧”な世界がここにはある。いや、ほんとうですとも。曲のラインナップだってもちろん事欠かない。エリス・レジーナ『In London』のあの曲「Corrida de Jangada(帆掛け舟の疾走)」もエントリー。同じく“疾走”するのが、カルロス・アギーレ「Milonga Gris」でのスキャット。タチアナの揺るぎない歌唱力を実感できる。また、本作でヴェールを脱ぐアンドレスの新曲「Sonora」「Salida」には、新境地を切り開くアンドレスの無限の可能性が。そのドラマティックな展開は美しさのみに収まらず、もはや革新へ向かっているとさえ思われる。伝統とモダニズムをミックスしてきた彼の行く先は…?パッケージの“オマケ”も、お見逃しなく。
celeste
発売・販売元 提供資料(2011/05/17)
声とピアノのみで綴られたこの傑作を聴いて、僕は勝手に清里の美術館を思い浮かべた。澄み切った空気、オーガニックな自然美と凛とした造形美の共存…。M P B 界注目の美声シンガーと〈ネオ・フォルクローレ〉界の中核アカ・セカ・トリオの鍵盤奏者がたった二人で描き出すのは、そんな心が洗われ、背筋が伸びる珠玉の美世界だ。中でもエリス・レジーナ『イン・ロンドン』の冒頭を飾った《Corrida de Jangada》の名演にはハッとさせられる。
intoxicate (C)田中幹也
タワーレコード(vol.93(2011年8月20日発行号)掲載)