クリスチャン・スコットをはじめとするコンコードのヤング・ライオン3人がキューバを訪問して現地ミュージシャンと繰り広げたラテン・ジャズ・セッション。 (C)RS
JMD(2011/06/06)
ミルト・ジャクソンやボビー・ハッチャーソンといった歴代のヴィブラフォン奏者の伝統を受け継ぎつつも、現代的でハイレベルな音楽を生み出しているステフォン・ハリス、ディジー・ガレスピー(tp)率いるユナイテッド・ネーション・オーケストラに参加し巨匠の薫陶を受け、ジャズとラテン・アメリカの伝統音楽を融合させた独自の演奏スタイルを作り上げたダヴィッド・サンチェス、伝統へのリスペクトとソウル/R&Bのを取り入れた斬新なアプローチが評価される、次世代を牽引するスーパースター、クリスチャン・スコット、このコンコードのヤング・ライオン3人がキューバを訪問して現地ミュージシャンと繰り広げたラテン・ジャズ・セッション・アルバム!参加アーティストは上記3人の他、キューバン・ジャズ界を代表するピアニスト、エルナン・ロペス・ヌッサの甥っ子であり、若手ピアニストの中でも突出したセンスを持つハロルド・ロペス・ヌッサや、その弟でドラマーのルイ・アドリアン・ロペス・ヌッサなど豪華メンバー。
ユニバーサル
発売・販売元 提供資料(2011/05/12)
90歳のマイルスと思い込んで、聴き始めてすぐ、2011年で80歳を迎えた故マイルスとはまったく関係ないことに気がついた。表題はもちろん、距離のことだ。ヴァイブラフォンのステフォン・ハリス、サックスのダヴィド・サンチェス、トランペットのクリスチャン・スコットというメンバーが、キューバに赴き、現地の若手とアルバムをレコーディングしたという、そのご苦労がこのタイトルに表現されているのだろうか。いまや、ジャズにアフロ=ラテンカルチャーが深くにじんでいることを再発見する必要を謳うレトリックなんていらないと思う。しかし、ダヴィド・サンチェスはいうまでもないが、アフロ=ラテン・マナーのジャズに深くコミットしているミュージシャンがアメリカにはたくさんいるという端的な事実を、日本のジャズジャーナリズムが積極的に紹介することはなかった。だからなのだが、たとえば、この手のジャズの名盤であること間違いないゴンサロ・ルバルカバの『化身/アバター』は、まったく評価されることもなかったし、ゴンサロのあたらしい音楽を生む力となったヨスヴァニ・テリーの『Metamorphosis』も、日本では存在していないかのようだ。さらにこのような排除が結局、アフロポリリズムに根ざす菊地成孔のDCPRGや、Pepe Tormento Azucararの音楽を括弧付きでもジャズとしてまったく評価されない環境を作ってきた。このアルバムの一曲目におけるポリリズムのありようには、DCPRGの《構造1》の構成原理と同じものを感じ取ることが可能だし、ミニマルとしか評価されない可哀想なスティーヴ・ライヒの《Octet》に聴こえる西アフリカの音楽のモントゥーノ化(?)にも相通じる律動がある。他にも、ゴンサロ・ルバルカバが開いたラテンジャズの可能性が、さらにもっとポップに開いた秀作がずらりと並ぶ。初期ウエザーリポートにまで戻ってジャズとアフロ=ラテンを構築し直した『化身/アバター』に続く、これは傑作といって、たくさんの人に買わせたい!といったらだめかな。
intoxicate (C)高見一樹
タワーレコード(vol.92(2011年6月20日発行号)掲載)