モレーノ、カシンと“+2”を組成したブラジル新世代の天才クリエイター、ドメニコ・ランセロッチ。意外にもソロでのフル・オリジナル・アルバムはこれが初。ファジーで摩訶不思議な浮遊感を生み出すブラジリアン・サウンド・スケープの未来像がここに!ドメニコ・ランセロッチ…ドラマー/エレクトロ・パーカッショニスト/サウンド・プログラマー/コンポーザー、その本来の姿は“サウンド・スケーピスト”と言われている。彼のシーンへの帰還を待っていたリスナーも少なくないハズ。そう、2000年にモレーノ・ヴェローゾ、アレシャンドリ・カシンと共に、ブラジル音楽新世代派ユニット“モレーノ+2”を組成した天才。2002年には、変名の“ドメニコ+2”名義で『シンシアリー・ホット』、 2006年に“カシン+2”名義で『フューチャリズモ』を発表し、ブラジリアン・ミュージック・シーンのコモンセンスを根底から覆す空間造詣的なサウンドを創り上げたキャリアは、早くも伝説になりつつある。『CINE PRIVE』(映画の略奪)という意味深なタイトル。造形芸術家としての才能も持つドメニコが、“+2”で培った混沌が生み出すテーマの一貫性、言わばコラージュ・ミュージックの原理と、シンガー/コンポーザーとしての新たなアイデンティティが生み出す、ファジーで摩訶不思議な浮遊感が全体を覆う。生のリズム・セクションとエフェクトを聞かせたヴォイスとギターの艶かしいウネリが、硬質で捉えどころの無い混沌の迷宮へと誘い込む…そんな香りを漂わせる冒頭のタイトル・トラックから、アコギ&シンセと効果的なプログラムを使いつつ無駄な音を省いた心地良いミディアム・ナンバーM2へ。エレピとファズ・ギター、ドラムの「祖」な重なりが、リキッドな音の質感ありながら瞬間移動的なアクセントでジワイワと入り込んでくるM3、ドメニコ風の異質なボサノヴァM4、変拍子とストリート・ブラス、そして怪し気なヴォイス・アレンジの絶妙な解析M8、そしてファンシーな音色のシンセと乾いたサンバ・セッションが昏々と流れて幕を閉じるラストまで。聴くほどに脳裏をリフレインし続ける、中毒的な音像は、ドメニコの中にあるすべてのアイディアと表現力が結実した産物に他ならない。もはやこの音は小宇宙を形成しているかの如し。錯覚でも何でもない。これが、ドメニコが作り出すブラジリアン・サウンド・スケープそのものなのだ。カエターノのDNAがその子孫世代に移り昇華した“+2”を、さらに前に推し進める唯一無二の1枚。ブラジル・シーンの新たな伝説がここから始まる。
発売・販売元 提供資料(2011/06/09)
ブラジルのフィルターを通過したポストロック以降のサウンド、そんな風に聞こえる音楽ではある。ただしエクスペリメンタルを志向しているというより、もっと先天的で、肩の力が抜けた、楽観的なフューチャー感。これこそがドメニコの、そして彼とカシン、モレーノの三人がここ10 年ほど断続的に活動してきたユニット〈+2〉の個性という気がする。加えてドメニコの場合には、サンバの唄心、フックがどうしようもなく頻出しながら、それでいて歌とサウンドとの乖離が全くない。純然たるソロ名義としては初となる本作の魅力も、そんなところにある。リズムをことさら強調する作品というわけでもないけれど、打楽器奏者としてのキレの良さ、サウンドに立体感を与えるプレイも存分に聴けて、身体能力の高さを証明。先述のカシンとモレーノ、ペドロ・サーはもちろんのこと、マニー・マーク、オン・フィルモア(ダーリン・グレイ&グレン・コッチェ)、アドリアーナ・カルカニョットの参加や共作も。
intoxicate (C)成田佳洋
タワーレコード(vol.93(2011年8月20日発行号)掲載)
カシン、モレーノとの<+2>プロジェクトなどで活躍してきたドラマーのドメニコ・ランセロッチによる初の単独名義アルバムは、ラウンジーで洒脱なサウンドのなかに実験精神やリズム遊びがテンコ盛りの未来派音響ポップ大傑作。尖っているくせに飄然とリラックスした、この曲者めいたカッコ良さは、さながら<シー・アンド・ケイクのその先へ……inブラジル>ってな趣。こりゃ、やられた!
bounce (C)田中幹也
タワーレコード(vol.334(2011年7月25日発行号)掲載)