通常上演される4幕のイタリア語版ではなく、5幕のフランス語原典版を用い、バレエの場面も含めた247分もの一大パフォーマンスの模様を収録。ヴェルディのグランドオペラの真価を再認識できる貴重な映像。 (C)RS
JMD(2012/08/16)
《ドン・カルロス》日本盤DVDリリースにあたり、この演出を手がけられたペーター・コンヴィチュニー氏より寄せられたコメントをご紹介します。
「ドン・カルロス」は叙事詩です。こうしたものを物語るには、時間が必要です。
この作品は、ヴェルディの手になる最も素晴らしい合唱シーンのひとつによって始まります。そこで私たちは理解するのです。この叙事詩において戦争は、すべての個人的な、そして政治的な災いの根底にあるのだと。
音楽は、脈打つような動機によって幕を開けますが、この後、私たちはこの動機をほとんどすべてのアリアや二重唱、アンサンブルの中で何度もくり返し聴くことになります。もしこの作品をほかの場面で始めるとすれば、それは、はじめに主題を提示することなくフーガを演奏するようなものです。
さらに第1幕で私たちは、カルロスとエリザベートがフォンテーヌブローの森でどのように恋に落ちるのかを知ります。このことはとても重要です。それによってこそ、この恋が破れたときに、私たちは彼らの苦しみを共感することができるのですから。
ヴェルディは「ドン・カルロス」をフランス語で作曲しましたが、その後の補綴や改訂もすべてフランス語で行っています。
こうした事情が物語っているのは、7つのうちのひとつの版、つまりオリジナル版だけが問題になるということです。
「火刑」の場は、構造的にも音楽的にも、他の場面とは全く性格を異にしています。テキストから見ればこれは、物見高い人々の座興に供するために異教徒が火あぶりにされるという民衆たちの祭りであるわけです。ですから私は、舞台と観客との間にある「第4の壁」を開くのです。ここに Spiel(遊び/演技)と Ernst(真面目さ/現実)、オペラと人生が混じり合います。(続く)
日本コロムビア
発売・販売元 提供資料(2011/05/12)
(続き)バレエの場面には、とりわけ小さなヴァイオリン協奏曲を伴って、ヴェルディの大変優れた音楽が聴かれますが、このバレエ音楽は初演以来、二度と演奏されることはありませんでした。なぜか。その背後には、「オペラでは笑ってはいけない」というオペラ界におけるタブーが潜んでいるのではないかと私は危惧するのです。そうしたタブーは、打ち破られなければなりません。このバレエは「カルロスを愛するというエボリの願望」をテーマとし、滑稽さがそれにふさわしい場所を見出すという機能を持った、いわばサテュロス劇なのです。
フィリップとエボリが関係を持つということは、この作品における最も重要な点です。だからエボリは、フィリップがアリアを歌う場面に、しかも彼のベッドに居るわけです。ある男が、自分は妻とうまくいっていないのだと言って、恋人に心の内をぶちまけるような致命的な状況というのは、ほとんど誰しもが知っているものです。
スコアにおいて「カール5世の声」と示されている謎に充ちたキャラクターは、私の演出においては、「生けるカール5世」となっています。あらゆる時代を通じて最も強大な力を誇った君主ながら、もはや不敬虔で破壊的なヨーロッパの政治にかかわりを持つことを疎んじて死の数年前に退位したこの人物。彼は、かつてマルティン・ルターがそう語ったように、世界の滅亡を思って木を植え(*訳注)、そして作品の最後で二人の恋人を異端審問所から連れ去るのです。
*訳注:「もし明日世界が滅ぶとしても、私は今日リンゴの木を植えよう」とのマルティン・ルターの言葉を指している
日本コロムビア
発売・販売元 提供資料(2011/05/12)
ヴェルディの《ドン・カルロ》は、2010年はミラノ・スカラ座の来日公演で上演され、2011年6月には、メトロポリタン歌劇場来日公演の演目に予定されているなど、日本でも近年、上演回数の確実に増えている注目の作品です。
このDVDに収められたプロダクションは、通常上演される4幕のイタリア語版ではなく、5幕のフランス語原典版を用い(初演でカットされた場面も取り入れられています)、バレエの場面も含めた実に247分もの一大パフォーマンスとなっています。もちろん、その模様を完全収録。ヴェルディのグランドオペラの真価を再認識できる、貴重な映像です。
さらにこの映像の価値を一層高めているのは、鬼才コンヴィチュニーによるスペクタクルな演出。会場全体を舞台へと変貌させたスリリングな演出は、社会風刺とユーモアも交えつつ、オペラ鑑賞という枠を超えた斬新な体験を与えてくれるはずです。
歌手陣も強力です。ラモン・ヴァルガスとイアノ・タマールのコンビが堅実な歌唱で、音楽を支えているほか、スコウフス、マイルズも歌唱・演技ともに実にユニークな味を出しています。特にエボリ役のナディア・ミヒャエルがこのプロダクションのなかで大きなアクセントとなっており、これぞエボリといわんばかりの美貌に、きめ細やかな演技、そして見事な歌唱でこの重要な役どころを演じきっています。
ビリーの指揮も極めて流麗! この超大作をまとめあげる手腕はさすがです。
日本コロムビア
発売・販売元 提供資料(2011/03/16)
これぞ本当の『ドン・カルロス』完全版!様々な版が存在するこのオペラ。パリ・オペラ座初演時5幕版で上演されたが、その際複数の場面がカットされていた。深夜終演後の観客が乗る最終列車に乗せるためにヴェルディが同意したのだそう。(封入ブックレット解説より)そのカット分も全て含まれた〈5幕フランス語原典版〉を上演したのがこのウィーン公演。上演時間247分に及ぶ大作。人気のコンヴィチュニーの演出も興味深いが(第3幕の"火刑"の場がどのように展開するかは見てのお楽しみ)何といっても主役の歌手陣が皆素晴らしい。マイルズのフィリップ2世の重厚感。名アリアも感動的に歌い見事。ヴァルガスのピュアな青年像も好感が持てる。ここでは持ち前の美声でとことんまで堪能させてくれる。悩めるエリザベートを誠実な演技で魅せたタマールの姿は心に残る。そして輝くばかりの美しさで場をさらったミヒャエルも特筆もの。長時間視聴も苦にならない、好盤です。
intoxicate (C)古川陽子
タワーレコード(vol.92(2011年6月20日発行号)掲載)