本業の電気グルーヴやら川辺ヒロシとのInKやらの活動が活発すぎたので意外なのだが、この『CRUISE』は石野卓球6年ぶりのソロ作品である。まずは本人の撮影によるジャケットが素晴らしい。カモメが群がる淡いトーンの写真。シンプルに美しいこの写真の感触、それが作品自体の第一印象にそのまま繋がっている。全6曲、フロア仕様の純テクノ・トラック集-ではあるけれど、決して闇雲に狂躁的な非日常を生み出すためのテクノではない。それぞれの楽曲は非常に抑制されたトーンで一音一音が絞り込まれ、極めてシンプルな構成となっている。冒頭を飾る”Feb4”での、涼しげなまでにシンプルで隙間の多い構成をクリック・ハウス的手法とよぶことも可能だろう。ヴィラボスなど南米勢によってお馴染みになったホーン系の音をあっさりと効果的に使った”Spring Divide””Hukkle”を最新テクノを絶妙な消化という解釈もアリかもしれない。アシッド・テイスト、煽情的なシンセ・リフなど、レイヴィーなパーツを淡々と組み上げた印象の”SpinOut”は、大人のレイヴ解釈とも言えるだろうか。メロウなんだけど、決してお涙頂戴にはならない、泣けそうで泣けない、でも少し泣ける”Y.H.F.”も素晴らしい。ヴォリュームを絞れば部屋での機能的なBGMにすらなりうる耳触りの良さ、ミックス映えもするフロアでの機能性、シンプルかつ良質で、ゆえに長い付き合いになりそうな、平凡な日常を少し気持ちよくしてくれる音楽。大袈裟に言えば、テクノのひとつの到達点。
bounce (C)石田靖博
タワーレコード(vol.324(2010年8月25日発行号)掲載)