| フォーマット | 書籍 |
| 発売日 | 2010年10月 |
| 国内/輸入 | 国内 |
| 出版社 | 集英社 |
| 構成数 | 1 |
| パッケージ仕様 | - |
| SKU | 9784087734713 |
| ページ数 | 304ページ |
| 判型 | 四六判 |
構成数 : 1枚
波瀾の歴史の中にショパンの秘密と恋を追う
秘められた恋人にショパンが捧げた未発表の楽譜はジョルジュ・サンドや多くの人間をも翻弄した激しい時代の流れの中、数奇な運命をたどった。ウンベルト・エーコ激賞の壮大な音楽歴史ミステリー。

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このもどかしさを焼き払う炎とは? そもそも、この炎なしに演奏できる? パソコンに譜面データを入力すれば、どんな難曲であろうと、たちどころに“完璧”に音が出力されるこの現代では? ヴィルトゥオーゾ(名手)は死に絶えた?
ピアノ演奏から、いや音楽そのものからさえ、不穏なる炎を追放しようとするこの現代に、異議あり! むらむらと立ち昇る異音、夾雑音、人非人ならぬ音非音からこそ音楽は始まったのであり、始まるのであり、そうして変転していくのだから。
「音楽の歴史は(だが言っておくが、どのような歴史なのか!)楽譜で物語れない部分の、それによって叙述できない空白を埋めるための、絶え間ない、引用と言及の一切を、不断に蓄積させることだ。音楽の歴史は、絶えざる引用の成層や、該博な知識の積み上げであり、大多数の人びとには解明不能な宝庫だ。なぜに短調の和音が同じ長調のそれよりも悲しげに聞こえるのか? その謂(いわ)れを、誰が説明できようか? もしや五度に挟まれた三度を半音減ずれば、聴く者の心の状態をそれだけ減ずることになり、それによって気力の萎(な)えをもたらすのであろうか? 馬鹿ばかしい。誰にだって納得できる説明はなしえない。けれども、真実ではある。短調が、同じ長調よりも、悲しげに聞こえることは。しかしいまは、本筋から外れ過ぎてしまった。ここで私が語ろうとしているのは、ヨハン・セバスティアン・バッハのことではないし、《パルジファル》のことでもなく、ニーチェやワーグナーのことでもない。ましてや、短調や長調の差異についてではない。私が語ろうとしているのは、もしも出来うれば、失われてしまったと思われていた一つの手稿譜を発見することによって生じた、私の人生の変転である。いまから二十年弱以前の、六月のある日に始まった、この物語を、せめて少しでも順序立てて、語れればよいのだが。それは、暑苦しい陽射(ひざし)の一日のことであり、セーヌ川でさえ疲れて、流れるのを忘れたかに、少なくともオルレアン河岸に面した、私の家の窓からは、そう見えた」(本書より)