マーキュリー・ミュージック・プライズを最年少の18歳で受賞した『Boy In Da Corner』(2003年)でのデビュー以来、順風満帆にキャリアを積んできたディジー・ラスカル。この4枚目のアルバム『Tongue N' Cheek』は自身のレーベル=ダーティー・スタンクからの登場である。これまでの成功を支えてきたXLからの離脱は、てっきりルーツであるハードコアなヒップホップ/グライムへ回帰するためだろうと想像していたのだが、それは大間違い! 今回は前作『Maths+English』(2007年)以上にポップネスとトレンドの要素を注入した、間口の広さが印象に残る全方位型のアルバムになっているのだ。それをサポートするのが多士済々なプロデューサーやミュージシャンたち。アーマンド・ヴァン・ヘルデン製のバウンス・エレクトロ“Bonkers”、アーロン・ラクレイトによるボルティモア・ブレイクス“Road Rage”、前作に続いて参加のシャイFXによるダビー・チューン“Can't Tek No More”、本作ではさまざまな場面で顔を出すヤング・パンクスが参加した極上のメロウ・チューン“Chillin' Wiv Da Man Dem”(デレゲーション“Oh Honey”ネタ)、もちろんカルヴィン・ハリスのアノ曲やティエストによるヒットもあり、昨今のボーダレス化したクラブ・シーンを丸呑みしたような内容で凄まじい。そんな曲調の多様さはMCのポテンシャルを存分に引き出すことに繋がってもいて、ディジーの魅力を過去最高に堪能できるステージが揃った作品だと言えるだろう。
bounce (C)青木正之
タワーレコード(vol.317(2009年12月25日発行号)掲載)
マーキューリーを獲ったらいきなりスピーチ・デベルを絶賛するような動きはやっぱりあるわけで、相変わらずそういう〈箔〉は有効なのですね、とか思う昨今。同じような意味で日本でのグライム観にも何かムダなものが貼り付いていて、エレクトロ・グライムと呼ばれる流れの愉快なノリが、ある種の固定観念によって伝わらないままになっている気がしてなりません。実際のところ、ここ最近ワイリーやチップマンク、ティンチー・ストライダーといったグライム出身MCが全英ヒットを連発する現状は、ラッパー勢が猛威を振るった10年前の全米チャートに近いのかも?と思います。つまり、USヒップホップやアーバン・ポップの華やぎが好きな人にこそ普通にいまのUKヒットを聴いてほしいんですよ。で、ディジー・ラスカル。カルヴィン・ハリス製の“Dance Wiv Me”(2008年)から、年を跨いで再度カルヴィンとの“Holiday”にアーマンド・ヴァン・ヘルデン作の“Bonkers”という3連続の全英No.1ヒットを含む新作『Tongue N' Cheek』が堂々の登場です。デビュー時からの相棒=ケイジはもちろん、ティエストやデンジャの参加もありますが、重要なのは超ポップなダンス路線となった内容そのもの。アドヴェンチャーズ・オブ・スティーヴィー・Vをリメイクしたヒップ・ハウス“Dirtee Cash”などの軽薄さが抜群で、肩の力を抜いてノビノビとラップし、どんなビートも斬れ味鮮やかにジャックしてしまうディジーが妙に楽しそうです。こっちも楽しくなる快作!
bounce (C)出嶌孝次
タワーレコード(vol.317(2009年12月25日発行号)掲載)