銃器不法所持で逮捕され服役、2009年12月に出所した'ヒップホップ界の若き帝王'の衝撃の7thアルバム。困難に孤独に立ち向かうT.I.の魂の叫びが凝縮された1枚。クリス・ブラウンと初共演した「ゲット・バック・アップ」他、収録。 (C)RS
JMD(2010/11/25)
帝王は死なず。まさに映画を地で行く衝撃の事件を経て、解き放たれた若き“KING”が再び頂点を目指した7枚目のアルバム。2009年に復帰第1弾シングル「I'm Back」を発表、2010年に入るとケリー・ヒルソンを迎えた「Got Your Back」、T.I.節全開の「Yeah Ya Know」のシングル2曲を矢継ぎ早に発表し、“百獣の王”ライオンと並んだジャケット写真もいち早く公開するなど今までの鬱憤を晴らすかのような入魂ぶりを見せ、『KING UNCAGED(=解き放たれたキング)』と名付けられた作品は、自身が主演のひとりである話題沸騰のクライム・アクション・ムービー『TAKERS』の全米公開(2010年8月)とほぼ同時にリリース予定だったが直前に延期。仕切り直しとなった今作は、あたかもT.I.の心象を反映したように、『KING UNCAGED』から『NO MERCY(=情け無用)』へと改題され、ジャケット写真も一新し、2010年12月の緊急リリースとなり、困難に孤独に立ち向かうT.I.の魂の叫びが凝縮された作品になっている。
ワーナー
発売・販売元 提供資料(2010/06/30)
各方面で伝えられているとおり、違法薬物所持などの容疑での逮捕に伴う保護観察規定違反により再収監が決まったT.I.。その影響で当初は「King Uncaged」(解き放たれたキング)と名付けられ、盛大なカムバック作となるはずだったニュー・アルバムも、一転「No Mercy」(情け無用)と改題されるのみならず、アートワークからコンセプトまで大幅な変更を余儀なくされるという異常事態下でリリースされることとなった。そんなシリアスなムードがアルバム全体にも少し漂ってはいるのだが、そんな逆境でこそ強さを発揮するのが真のキングなのだろう、エミネムにカニエ・ウエスト、ドレイクといったトップ・クラスのゲスト・アクトや先行曲"Get Back Up"でのクリス・ブラウンにトレイ・ソングスらホットな人気シンガーとのコラボ曲を惜しみなく投入。また、エミネムの大ヒット曲"Love The Way You Lie"を手掛けた
アレックス・ダ・キッドのプロデュースによる、その路線を躊躇したようなクリスティーナ・アギレラとの共演曲"Cause Walls"(シングル・カットも予定されているとか)から、お抱えのリルCによるスカーフェイスらとのローカル・マナーな"How Life Changed"まで、これまで以上のレンジの広さを見(聴か)せながら密度は濃いままに保たれていることからも、この状況下において凄まじい集中力で製作されたことを窺わせる。それゆえに、これまでにないほどのドラマを感じさせるアルバムとなっているのだろう。
bounce (C)升本徹
タワーレコード(vol.328(2010年12月25日発行号)掲載)
自分の内側に棲まう向こう見ずな自分と闘うというコンセプトだった「T.I. vs T.I.P.」(2007年)に準えれば、またT.I.P.が勝ってしまった、のだろうか。自己最高セールスを更新した前作「Paper Trail」(2008年)が、銃器不法所持などの量刑が確定するまでの自宅軟禁という状況下でレコーディングされたのはよく知られるところだ。2009年5月に収監→2010年3月に出所→2010年9月に保護観察再逮捕→11月の再収監……という経緯を経て届けられたニュー・アルバム「No Mercy」に関しても、ムショ入りが決まった状況下で録音されるというシチュエーションそのものは似通っているが、前作が作品の背景も込みでドラマティックに語られたのに対し、いまのところ今回はそこまで広い層のリスナーを巻き込むまでには至っていない。まあ、この状況で<No Mercy>ってのも勝手な言い草か。長い不在も作用して本人の勢いがやや後退したの否めないし、先行シングルだったはずの"I'm Back"や"Got Your Back"が(コンセプトの変更ゆえか)アルバム本編に収録されていないのも少し残念ではある。それでも集まってきたビートのクォリティーや楽曲の仕上がり具合は流石にキング。帝王スカーフェイスとじっくり聴かせるサザン・ブルージーな"How Life Changed"をはじめ、盟友DJトゥーンプによる劇的な"Big Picture"、クール・キッズあたりを連想させるネプチューンズ製の超ヒプノティックな"Amazing"、トロントのT・マイナスによるドレイクとの"Poppin Bottles"など、全体のコンセプトの重さを気にせずともシンプルな作りの楽曲の良さが光る。前回のようなNo.1ヒット連発は難しいとしても、本当のカムバックまで期待を繋ぐには十分な力作だろう。
bounce (C)轟ひろみ
タワーレコード(vol.328(2010年12月25日発行号)掲載)