同じ作者から作られた「三日月」と「こころ」。しかしどこか色の違う二枚。その二枚、それぞれの色が共存する今作『栞』。未録音音源集というくくりで集められた楽曲ではあるが、お蔵入り作品を集めたB級アルバムではなく、どの曲もライブでよく歌われ、音源化を望まれていた楽曲ばかりである。さらに、全曲レコーディングは、今作のために新たに行われている。ありがちなテーマですら、神門のフィルターを通せばありがちなリリックにはならない。当たり前のことをを当たり前に伝える表現力は今作でも健在。ライブでよく歌われている楽曲を中心に、トピック、切り口も様々、バラエティ豊かな曲達が並ぶdisc1「詞集」(+「四収」)。全編『物語』で構成されるdisc2「死終」。一話一話のテーマが濃く、未だかつて誰も目につけなかった題材の物語ばかり。それらの物語のまとめとして、今作、唯一新しく書き下ろされた「いのち」は必聴。一枚、一枚がアルバムとして成立していて、別々にリリースすることも可能な中、色の異なる二枚だからこそあえて一つの作品にまとめた、合わせて100分を越える超大作。CDを聴くために時間と力を費やさなければ、作品の真髄には触れられない。『聴く』というよりも『体験する』『挑戦する』一枚。
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タワーレコード
叙情的かつ文学性の高いリリックで注目を集める神戸のMCが、ライヴなどで披露された未音源化の楽曲を集めた2枚組の大作を発表。Disc-2〈死終〉は、みずからの死生観をさまざまな物語で表現した連作となっており、その重厚なテーマと真っ向からぶつかり合う彼の真摯な言葉が、痛いほど胸に突き刺さる衝撃の内容だ。本作で唯一の書き下ろし曲となったエモーショナルな人生賛歌“いのち”は、ぜひ耳を傾けてほしい。
bounce (C)北野創
タワーレコード(vol.314(2009年09月25日発行号)掲載)