戦前、ジャズのレコード発売が困難な時節に『サロン・ミュージック』のタイトルでベニー・グッドマンのスウィングやゲッツィのタンゴ、ザビア・クガートのラテンのスタイルを日本の歌曲や民謡に応用して編曲し、ベスト奏者を集めたオーケストラで演奏したレコードを発売して軽音楽ファンから絶賛を博した天才アレンジャーがいた。ここにその全40曲を復刻する杉井幸一もその人である。彼は幻の伝説的編曲家として知る人ぞ知る存在であるが、そのサウンドは今日聴いても新鮮で、魅力ある個性的なアイデアで溢れている。本作は。戦前日本のジャズ、ラテン、タンゴのイージー・リスニング音楽集として再評価したい1枚。
タワーレコード
戦前、日本のスウィング・ジャズに大きな影響を与えた名アレンジャー、杉井幸一の作品集。三味線や長唄が好きな母親のもとで育ち、カナダ人の音楽教師からピアノを学び、商船会社に就職してからはアルゼンチン支社で働いて本場のタンゴを研究する。そんな杉本の生い立ちがそのまま反映された、才気溢れるアレンジが素晴らしい。ジャジーな《荒城の月》やルンバのリズムに乗せた《かっぽれ》など和洋折衷、ラテンや中華風味も加わった無国籍イージーリスニングが目白押し。ただのエキゾティシズムに終わらない、自由な実験精神と大衆性が魅力的だ。
intoxicate (C)村尾泰郎
タワーレコード(vol.81(2009年08月20日発行号)掲載)