文字通り掘り起こされたカセットテープの中から丹念に抽出された、カラフルなノイズ、ダーティーなドラム、人なつっこい電子音、重厚なホーン、それから美しい旋律と独特の野蛮なグルーヴ。まるで作者の脳内をスライド式の映写機で映すかの様に、様々な音色がめくるめく展開を見せる本作は、56個のトラックそれぞれが独立した作品でありつつも、全てを通して一枚の作品とも言える不思議な魅力に満ちている。世界屈指のトリップ・ミュージックを奏でるいわずとしれた音楽家集団“THINK TANK”のコア・メンバー、KBことKILLER BONGが描くこの世界観は、例えば自身が組み上げたコラージュ・ブック「BLACK BOOK」と根底で秘かに通じつつも、しかしよりプライベートに密接な生々しい感触を感じ取る事が出来る。MPCからカセットテープに思いのまま詰め込まれたその当時その瞬間の音が、現在のテクノロジーによって丁寧にエディットを施された結果、時代性までをも飛び越えてしまうような求心力を発揮してしまった高濃度な80分。
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タワーレコード
KILLER-BONGの新作は究極のアンビエントとでも言うべきか、効果音集のような異物で一言じゃ語れない。J・ディラのアレのように約80分で56曲という膨大な曲数で、カリンバや機械音などさまざまな音を入れたり、BPMを無視した野太いビートの上にパーカッションを乗せて混沌とさせるなんて仕掛けもKILLER-BONGらしい。また各曲の表題は暗号、はたまた詩のように意味深で、音と照らし合わせるとよりおもしろい。
bounce (C)アント
タワーレコード(2009年05月号掲載 (P87))