これは驚き…。ジャズ・ピアノの世界において、本国イタリアのみならず、全世界規模で確固たる地位を築いたエンリコ・ピエラヌンツィがクラシックの楽曲に挑戦。イタリアが誇る作曲家、ドメニコ・スカルラッティのソナタを取り上げました。ジャズ奏者としてクラシックを取り上げた人としては、キース・ジャレットを筆頭として、ジャック・ルーシェといったピアニスト、またデオダードといったアレンジャーたちがいますが、この作品は、“融合”という意味において最も深いものを感じます。それは、原曲を忠実に弾くということでもなければ、ジャズ的なコードやリズムで原曲をフェイクしていく方法でもなく、基本としては、書かれた原曲を生かす演奏を“核”としつつ、そのモチーフを生かして発展させていくというもの。しかも素晴らしいのは、その原曲とジャズの最大の特徴であるインプロ=即興で奏でられた部分が、一体化して構成されていることでしょう。ある曲は、耽美さと優雅さをたたえたインプロ・イントロが原曲を導くことに成功。一方では、乱暴な言い方をすれば、元の楽曲をメッタ切り!。しかし、不思議なことにも、楽曲のフレーズの絶妙な引用を組み合わせることから、原曲とインプロ、二つの境界線はかなりアヤフヤ。引用部分にテンションノートの片鱗を忍び込ませつつ、ガラガラとジャズの世界に崩壊せしめているにも関わらず…。それでいて原曲の気配も残し一つの世界として成立させていくのです。K377番を取り上げた5曲目などは見事としかいいようがありません。
タワーレコード(2009/04/08)