クラムボン、原田郁子のセカンド・ソロ・アルバムが完成しました。スタジオだけでなく、山梨県小淵沢にあるギャラリーでもレコーディングを行なっていて、心地良いサウンドと空気が詰まった仕上がりです。映画『百万円と苦虫女』の主題歌「やわらかくて きもちいい風」の弾き語りヴァージョンなどを収録。 (C)RS
JMD(2010/06/14)
2008年3月5日にリリースしたシングル「気配と余韻」で3年半ぶりのソロ活動をスタートしたクラムボン原田郁子が、待望のセカンド・アルバムをリリース。先行シングルの「気配と余韻」と同じく、山梨県小淵沢にある元保育園というギャラリーで録音された静かで心地よい音楽と空気と時間が本作には詰まっています。
タワーレコード
昨年5月にアルバム『Musical』を発表したのち、バンドが持ち得る知力、体力、気力を余すことなく使い果たすかのような壮絶かつエネルギッシュなライヴ・パフォーマンスを全国津々浦々で展開したクラムボン。ツアー2日目にして会心の演奏を披露し、押し寄せる感動を楽屋で静かに噛み締めるメンバーの姿をはじめ、バンドが迎えたひとつのピークとオンガクすることの悦びを全身で味わい尽くす彼らの様子は、先頃DVD化されたドキュメンタリー映画「たゆ たう-GOOD TIME MUSIC of clammbon-」において見事に活写されている。
そんな爆発的な盛り上がりを経て、ふいに訪れた凪のような状態のなか、みずからの内面に深く深く潜り込み、表現者としての自分自身と徹底的に向き合った末に作り上げられたのが、原田郁子のセカンド・ソロ・アルバム『ケモノと魔法』だ。前作『ピアノ』に比べてぱっと聴いた時のカラフルさはないものの、ひとつひとつの音色や言葉が放つ色彩は濃厚すぎるほどに濃厚。偶発的なセッションやインプロヴィゼーションを積極的に採用するなど、共同プロデューサー/エンジニアを務めたZAKによるドキュメンタリー性を優先したレコーディング・スタイルとも相まって、原田郁子というシンガーが持つ魅力を、旨味はもちろんエグ味も含めてあるがままに凝縮した作品に仕上がっている。
bounce (C)望月哲
タワーレコード(2008年06月号掲載 (P76))
クレジットにはオオヤユウスケや永積タカシ、高野寛といった気心の知れた面々に加え、原マスミと友部正人の名を見つけて〈おや?〉と思う。かたや狂気の夢想家──夜を背景にねじれたメルヘンを描くシンガー・ソングライターにして画家。かたやフォーク界の鬼才にして和製トーキング・ブルースの開拓者。2人は、多くの人が原田郁子に抱いているであろう伸びやかなイメージとはいささか対照的で、軽い違和感を覚えたのだが……この人選は吉と出た。なぜなら彼女のセカンド・アルバム『ケモノと魔法』は、みずからの胸の内をひっそりと打ち明けてくるかの如く、しんとした夜の空気を纏う〈歌〉を中心に据えた作品だからだ。ポリリズミックな打楽器とフリーキーな管弦楽器の音色による混沌が寓話的な詩世界へと引き込む“青い闇をまっさかさまにおちてゆく流れ星を知っている”、柔らかなトーキング・ブルースとなった原マスミ“ピアノ”のカヴァー、美しく壮大なフォークトロニカ“あいのこども”などの静謐な楽曲のなかで、真摯に言葉を紡ぐ彼女の声。暗闇に浮かぶ小さな灯のように、歌が儚げながらも確かな存在感を放つ。また、録音時の空気も封じ込めた密室度の高いアレンジにより、歌とリスナーとの距離も近い。
この作品は、ひょっとしたら原田郁子にとってのブルース・アルバムなのかもしれない。ここにはクラムボンの作品で見られるような、明るい陽の下で大らかに歌を解放する彼女の姿はない。あるのは、古のブルースと同質の青い闇。あるいはジョニ・ミッチェル『Blue』を彷彿とさせる、心の奥に沈んでいる言葉をひとつひとつ拾い上げながら、さらに深い場所へと下りていくような感覚もある。夢の入口で耳をすませば〈ケモノと魔法〉が飛び交うファンタスティックなブルースが聴こえてくる。
bounce (C)土田 真弓
タワーレコード(2008年06月号掲載 (P76))