辛辣かつシリアスなルーツ・ミュージックの表現者、エルヴィス・コステロの呼びかけで、ニューオリンズ音楽の育ての親、アラン・トゥーサンが腰を上げたことにより発足したプロジェクト。エルヴィス・コステロの書き下ろし楽曲、そしてアラン・トゥーサンお馴染みのナンバーを中心に、ニューオリンズ・スタンダード全14曲を収録。 (C)RS
JMD(2010/06/14)
あまりに大きな天災――昨年の夏にアメリカを襲ったハリケーンが人々の心に残していった心の傷跡を癒すように、天才と呼ばれた音楽家がそのキャリアのすべてを注ぎ込んでみせたような、素晴らしい作品を完成させてくれた。ハリケーンでさえも吹き消すことができなかったニューオーリンズの音楽の伝統の灯、アラン・トゥーサンという希望。セカンドラインのリズムが躍動し、おもしろおかしさの中にほろ苦さを秘めた独特のメロディーが溢れ、エレガントで繊細なアレンジメントが歌と演奏のすべてを優しく、大きく包み込む。直接的なメッセージではないけれど、この豊潤で芳醇な音楽作品のすべてから、トゥーサンの故郷への深い愛を感じ取ることができると思う。リズミカルな曲からバラードまで、あまりに魅力的で魅惑的な新旧の楽曲の多くはトゥーサン作。その枯れることのない創造の力に乾杯(!)。そのトゥーサン・ワールドに作曲(トゥーサンとの共作含む)と歌で、深い陰影と彩りを添えてくれたのがエルヴィス・コステロ。ただの歌の巧いシンガーでは決して引き出せなかったであろう楽曲のニュアンスに富んだ表情を、完璧に表現し尽くしてくれている。もちろん、コステロにも乾杯(!)。ニューオーリンズ音楽の奇跡を刻んだ名作は過去に数多いけれど、これも完成した瞬間にまぎれもなくその仲間入りが決定(トゥーサン名義作では『Southern Nights』にも匹敵!)。音楽の力を、きっとみんな信じたくなるはず。永らくご愛聴ください。
bounce (C)鈴木 智彦
タワーレコード(2006年06月号掲載 (P72))
まるで自分の腕を試すかのように、これまでポール・マッカートニーやバート・バカラックといった希代のメロディーメイカーと共演/共作を行い、そのつど素晴らしい成果を残してきたエルヴィス・コステロである。次の手合わせは納得の人選、アラン・トゥーサン。ザ・バンドやリトル・フィートの現場で、ロックとリズム&ブルースをクロスオーヴァーさせる仕事を行ってきたトゥーサンだ。コステロの目が輝くのは当然なのだ。両者はコステロがオノ・ヨーコのカヴァー曲“Walking On Thin Ice”を吹き込む際に初めて顔を合わせ、その後はコステロの89年作『Spike』のセッションでトゥーサンがブリリアントなピアノを提供、コステロを喜ばせた。そして、本作はコステロがトゥーサンのキャリアへのリスペクトを真っ直ぐに表した内容となっている。そもそもがニューオーリンズ復興プロジェクトの作品であるからして、バカラックとの共演作などとは比較するポイントが異なるわけだが、トゥーサン世界へと飛び込んで音楽的会話を楽しむことを第一と考えているような感じがある。もちろん会話の達人コステロの仕事、素晴らしいコラボレーションとなった。それにしても、トゥーサンの名曲“Nearer To You”“Freedom For The Stallion”などをわが身に引き寄せ、自作曲のように仕立て上げてしまうコステロのシンガー/表現者としての力量には感心させられる。そういう意味で、コステロは本作をソウル・シンガーとしての自分を見せる場と意識していたのかもしれない。
bounce (C)桑原 シロー
タワーレコード(2006年06月号掲載 (P72))