ファンタジックな世界観のなかで、普遍的な恋愛感情を描いた「ジョゼと虎と魚たち」の名コンビ=犬童一心監督×渡辺あや脚本による新作。〈ジョゼ~〉とはまた角度の違う、リアルな世界のなかでファンタジックな恋愛感情を描いたのがこの「メゾン・ド・ヒミコ」だと言える。
塗装会社の事務員として働く吉田沙織。とある理由で、彼女のもとにしつこく連絡をしてくる岸本という男。美しい顔をした彼は、もう何年も会っていない彼女の父親の恋人だという。ある雨の日、ついに会社にまでやってきた岸本はガンで余命幾ばくもない父が運営する老人ホームを手伝わないかと誘う。ホームの名前は〈メゾン・ド・ヒミコ〉。伝説のゲイ・バーのママだった父親=卑弥呼を慕って集まった老人ゲイたちの賑やかで、温かで、秩序のある暮らしぶりに沙織は徐々に惹かれていく。みんなで流しそうめんをしたり、オシャレして街のダンスホールに繰り出したりの楽しい毎日……しかし、卑弥呼の死によってホームの秩序は少しずつ崩れ、存続も難しいものに。
濃淡の幅が極端に広い物語に、音のブラッシングで色味を調整するのは細野晴臣。映画音楽を手掛けるのは「源氏物語」以来、なんと18年ぶり(!)だというのがちょっと意外だ。ミュゼットからエスノ電子音、SKETCH SHOW路線のフォークトロニカまで、サントラも彼自身の集大成的充実ぶり。柴咲コウ演じる沙織と、オダギリジョー演じる岸本が交わす何度かの切ないキスの場面。二人にはどんな音楽が聴こえていたの?
bounce (C)佐々木 俊広
タワーレコード(2005年09月号掲載 (P108))