パーティー、欲情、駆け引き、セックス、浮気、泥沼……あらゆる状況が聴くだけでヴィヴィッドに頭に浮かぶ。それがR・ケリーの書くリリックである。この新作は彼がふたたび〈セックスの伝道師〉へと復活した作品だ。2枚組の前作『Happy People/U Saved Me』の〈Happy People〉盤ではパーティーを楽しむプレイヤーぶりを発揮していたが、やはりセクシャルな面に関しては児童ポルノ容疑で裁判中であることも頭にあったのか、彼にしてみれば抑え目なアプローチだった。でも、今作ではロバートのエロ節が炸裂! 人が、特にキリスト教を重んじる人たちが〈恥〉と思うような〈裏〉の部分をさらけ出すのは、それが真実であろうと勇気がいることだ。熱心な信者である彼がその勇気を取り戻し、具体化したのがこの作品なのではないだろうか。どんな人だって、キッチンでセックスしたくなったり、仕事をサボってでも愛する人と愛し合いたいと思うこともあるし、何もかも忘れてパーティー三昧したくなったりもする……でしょ? 彼が有名人だからそんな生活をしているわけじゃなく、誰だって実行してはいなくても、一度ぐらい妄想したことがあるはず。そんなモノクロの妄想世界にカラーを与えてくれるのがこの〈伝道師〉だというわけだ。まぁ、今回はカラーを加えるどころか、そのまま昼メロチックなミニ・ムーヴィー〈Trapped In The Closet〉まで作っちゃってますけど……。
bounce (C)Kana Muramatsu
タワーレコード(2005年08月号掲載 (P78))
前作『Happy People/U Saved Me』から10か月。リリース・ペースとしてはそう闇雲に早いものではないかもしれないが、その前作がステッパーズ/ゴスペルという2つの面を高濃度で表現した奇跡的な大作であったことを考えると、どこかケリーの〈生き急いでいる感〉を感じずにはいられないんだけど……。ともかく、だ。コンセプチュアルな前作と比べると、〈TPシリーズ〉の第3弾としてリリースされたこの新作には、どこか一筆描きのような、ケリーの才能の赴くままに書かれたような印象があって、前作と異なる肌触りなのは一聴瞭然。また、近作では聴かれなかったゲストとのコンビネーション・チューンも今回は多数。ゲーム、スヌープ・ドッグ、ニヴェア、トゥイスタ、エレファント・マン、ドゥ・オア・ダイ、ベイビーといったクセの強い面々が並んでいて、なかでも純正レゲトン・チューン“Burn It Up”でレゲトン界の若手デュオ、ウィシン・アンド・ヤンデルをフィーチャーするあたりには流行りモノに敏感なケリーの志向がはっきりと窺える。特筆すべきはニヴェアとの“Touchin'”(過去最高にエロい彼女が聴ける)などスロウの充実度で、“In The Kitchen”“Put My T-Shirt On”など生ツバものの超絶スロウが揃っている。その最高峰が20分以上にも及ぶ5部構成の〈Trapped In The Closet〉。前作で頂点を極めたかと思われたドラマティック手法もここまでくると開いた口が塞がらないが、これだけの大曲をサラリと書いたように聴かせるところにケリーの真骨頂がある。毎回のことですが、今回も傑作です。
bounce (C)大石 始
タワーレコード(2005年08月号掲載 (P78))