フランス・ディズニー製作のドキュメント映画『皇帝ペンギン』(2005年7月16日公開)のサウンドトラック兼、音楽を担当した女性シンガー、エミリー・シモンのセカンド・アルバム。 (C)RS
JMD(2010/06/14)
マイナス40度のなか、子育てのために4か月間も絶食する動物がいる。それが皇帝ペンギンだ。今作は南極の初冬から春までの、彼らの生活を追った物語である。寒さから身を守るためたっぷりと脂肪で覆われた胴体がなんともかわいらしいのだが、そんなかわいらしさとは裏腹に何百キロもの距離を列を連ねて移動するなど生活ぶりはとことんタフ。夏の間離ればなれになっていた仲間たちが産卵のためオアモックに集って、卵を温めながらじっと春を待つ。短い足を使ってよちよち歩く姿は目が潤んでしまうくらい愛らしいが、種を維持するための果敢な戦いぶりを観るにつれ、次第に尊敬の心が芽生えていく。
ドキュメンタリーとして素晴らしいのはもちろん、さらに全体がドラマ仕立てになっているところにも注目したい。母ペンギンにロマーヌ・ボーランジェ、父ペンギンにシャルル・ベルリング、子ペンギンにジュール・シトリュックとフランスを代表する名優たちが声を吹き込み、ドラマティックな皇帝ペンギンの暮らしを盛り立てる。美しい言葉とフランス語特有の響きが映像に優しさを与え、とりわけ繁殖期のシーンがちょっとやりすぎ(?)なくらい官能的に描かれている。細部にまでフランスの香りが漂っていて、芸術点もかなり高いのである。また音楽はエレクトロ・ポップ界の歌姫=エミリー・シモンが担当。冷んやりしたなかにも温かみを感じさせる彼女の声は、文句なしにこの映画にフィットしている。ただのドキュメンタリーでは終わらない、これは深い深い愛の物語だ。
bounce (C)山西 絵美
タワーレコード(2005年07月号掲載 (P116))
昨年、デビュー作『Emilie Simon』でフランスのグラミー賞ともいえる〈ヴィクトワール賞〉を受賞したエミリー・シモン。注目の新作は映画のサントラ。コウテイペンギンについてのドキュメンタリー映画らしく、収録曲も“The Frozen World”“Ice Girl”といった、ひんやりしたタイトルが並んでいる。そうした言葉に色彩を与え、息を吹き込むのがエミリーのサウンド・デザインだ。音響技師の父とミュージシャンの母から受け継いだ才能、それを見事に開花させて、エレクトロニックなアプローチで南極の幻想世界を作り上げている。雪の結晶のような電子音がチリチリと舞うなか、彼女のウィスパー・ヴォイスが風のように自由に漂う。そこにハープやマリンバ、クリスタル・バシェ(濡れた指で縁を擦って音を出すグラス)など、さまざまな生楽器がミックスされて生まれる澄み渡った叙情。その鮮やかさは、氷でできた絵本みたい。
bounce (C)村尾 泰郎
タワーレコード(2005年04月号掲載 (P67))