ギターとドラムだけという最小限の構成で最大限のロック・ダイナミズムを体現するホワイト・ストライプスの、前作『エレファント』に続くアルバム。ピアノ、アコースティック・ギター、マリンバで書かれた全13曲は、エレキ・ギターをベースにした曲はたったの3曲しかないにもかかわらず、どこを切ってもロックンロール!前作以上の破壊力、衝撃を持ち合わせた今作は、彼らがガレージ・ロック・リバイバルの発火点という自らのイメージを軽やかに超越し、ロックの今後を担う存在にまで上り詰めたことをはっきりと認識させてくれる。10年後には間違いなく歴史的名盤の1つに数えられているだろう、未来のマスターピースが誕生した。 (C)RS
JMD(2011/05/12)
前作『Elephant』で2003年度のグラミー賞2部門を受賞したホワイト・ストライプス。彼らが旗印として掲げている赤と白のストライプが、ペパーミント・キャンディーからインスパイアを受けたもので、子供時代のイノセンスの象徴だっていうのは、よく知られるエピソードだ。常々その紅白のペパーミント・キャンディーってやつを舐めてみたいと思っていたが、この新作『Get Behind Me Satan』を聴いて、たっぷり味わったような気にさせられた。ここに並んだ13のロックンロール・スウィーツは、過去のストライプス・サウンドとはひと味違う。ジャック・ホワイトのエレクトリック・ギターは最小限に切り詰められて、その緊迫したブルース空間にこれまでにない自由度を与えているのは、ピアノとマリンバのパーカッシヴな響きだ。すべてがレコーディングを始めてから作られた新曲らしいが、曲の構成やミックスは大胆にして緻密。彼らのサウンドの根底にずっと流れていたオルタナティヴな精神が、ここでは一種の凄みをもって全開している。ここに満ちているのは、まるで殺人犯が獄中で美しい肖像画を描き上げたような異様な迫力だ。イノセンスという言葉の裏に隠された無邪気な破壊力をポップな色彩でシュガーコーティングした本作は、すべてのロックンロール常用者を虫歯にするだろう。ベックの新作『Guero』にジャックが参加したのが、本作へのプロローグと思えるくらいブランニューな傑作!
bounce (C)村尾 泰郎
タワーレコード(2005年06月号掲載 (P74))
前々作『White Blood Cells』は全米チャート最高61位、前作『Elephant』は初登場6位とセールス面を見てもひたすら上向きだし、ジャック・ホワイトは俳優に挑戦したり、グラミー2冠に輝いたロレッタ・リンの最新作『Van Lear Rose』でプロデューサー手腕を発揮。セレブ化を慎重に避けつつ着々と存在感を強めているホワイト・ストライプスだが、この5作目『Get Behind Me Satan』ではメジャー志向に傾くどころかさらに独自路線を邁進。デュオという枠やローファイなアプローチは表現を限定するものではなく、逆にその身軽さゆえ、無限に拡大できることを印象付けている。まず従来と違うのは、ピアノとマリンバとアコギで曲を作り、エレキの使用を限定した点だ。つまり反テクノロジー主義の極みというか、アコースティック&パーカッシヴな楽器主体で構築。各曲の仕上がりはシンプルながら、結果的にサウンドは飛躍的に多様化した。冒頭のシングル曲こそ前作の延長上にあるも、古典的ソウルやカントリー、レッド・ツェッペリンばりのロックを網羅し、ラストは場末感に満ちたピアノ弾き語り。ブルースやガレージといった言葉はどんどん無意味になる。そしてジャックが説くのは、亡霊からリタ・ヘイワースまでさまざまなキャラが彩る寓話風物語の数々。荘厳かと思えば猥雑で、告白し、訴え、糾弾し、嘆き、外向きに発散されるエモーションに圧倒されっぱなし。もうバンドとしての特異な佇まいなどを語る必要はない。予測不能で大胆不敵な音楽性と、恐るべきソングライティング力で評価されるべき一枚だ。
bounce (C)新谷 洋子
タワーレコード(2005年06月号掲載 (P74))