ケミカル・ブラザーズはアリかナシか。それはわからんが、フレーミング・リップスとの合体には正直ガッカリさせられたし、彼らももうつまらない大御所になっていくのかと思っていた。ただ、この5枚目のアルバムは……別に〈一度落として→持ち上げる〉というレヴューの常套論法でもなんでもなく、今回は本当に、久々に、マジで格好いい! プロディジーやらノーマン・クックやらが90年代の残照を同時多発的に披露してきた流れもあるのだろうが、ここには〈先鋭じゃなくなることで得た時代性〉とか〈古いところは古くてOK〉な気分がきちんと備わっているのだ。Q・ティップを迎え、ブーストされたベースと大ぶりな弦のループを繰り出す“Galvanize”の前のめりで極太なビート感は、エレクトロの微電流を纏って時代に巧くリンクしている。エレクトロといえば、“Come Inside”の底にウネウネ横たわるのはグランドマスター・フラッシュ“White Lines”だろうし、“Left Right”はUS南部系の下品なトラック(もっといえばドラマの軍隊バウンス“Left, Right, Left”)っぽい。“Shake Break Bounce”はギター系のダンスホール・リディムを転用したような感じだし、お得意のビートルズ“Tomorrow Never Knows”路線となる“Marvo Ging”も腰の入った仕上がりだ。曲調は多彩だから一概には言えないけど、今作のキモはそういう横ユレのグルーヴにある。だから、従来の〈ロック・フェス御用達ダンス・アクト〉みたいなイメージで今作に接すると絶対に裏切られるはず。これ見よがしなミクスチャーとかが好きな人にこそ今回はオススメしたい感じです。
bounce (C)出嶌孝次
タワーレコード(2005年01,02月号掲載 (P84))
活動歴が長く、作品も多く残しているアーティストの新作と聞くと、こちらの身勝手な先入観も手伝って〈あー、どうせ××な感じでしょ〉なんて斜に構えてみたりすることが多々あり、特にここ最近の膨大なリリース状況を考えてみれば、そんな状態にますます拍車が掛かりかねない現在。自分のなかでは危うくその仲間に入りかけていたケミカル・ブラザーズですが、先行シングルにもなり、アルバム冒頭を飾っているQ・ティップをフィーチャーした“Galvanize”を聴いて愕然! かっこいい……スパイスの香りがしてきそうなエスニック調のメロディーと、一音一音が下半身に響くビート、そして抑揚を抑え気味にしたクールなラップが織り成す完璧なコラボレーション! それに続くのは、彼らの作品にはもはや欠かせないティム・バージェス(シャーラタンズ)が登場する“The Boxer”。鼻からスーッと入り、全身に心地良い痺れを残して抜けていくこのライト・ファンク・チューンを聴き終える頃には、すっかりアルバムに身を委ねるハメに。この後もディスコ・パンクやニュー・スクール・ブレイクス、ダンスホール、サイケなど、あらゆる要素をちょいと摘んでケミ流にアレンジしたシングル・カット級の激ヤバ・トラック群が待ち受けています! 全体的に特別アッパーな印象を受けないものの、繰り返し聴けば聴くほどにその凄さが身に沁み、〈スゲーのができちゃったなぁ〉って感想が口から漏れちゃいます!
bounce (C)青木 正之
タワーレコード(2005年01,02月号掲載 (P84))