イギリスのロック・バンド、トラヴィスの2001年発表『インヴィジブル・バンド』以来、通算4枚目のアルバム。セルフ・プロデュース作。「クイックサンド」「ミッドライフ・クライシス」他、11曲。繊細で美しくそして切ないメロディーは、チェロやストリングスを取り入れたきめ細やかアレンジで光る。 (C)RS
JMD(2010/06/14)
ただただ素晴らしい音楽を作り、そして、歌う…。圧倒的な支持を受け、愛され続ける英国国民的バンド、トラヴィスの圧倒的な美しさと強い信念をこめた4thアルバム。
タワーレコード(2009/04/08)
何ひとつ足すことも引くこともできない完全無欠のハーモニー。計算し尽くされていながら、その労の重みを感じさせずに自然に浸透し、心に降り積もる音楽。トラヴィスの2年ぶりとなる4作目は、彼らがもはやスコティッシュあるいはUKロック云々といった論点では語り尽くせぬバンドに成長したことを物語っている。とにかくメロディーがあまりに美しい。特に今回はマイナー・コード主体でメランコリーの深い霧が全編を包み、前作『The Invisible Band』に収められた“Sing”のように長閑に合唱できる〈いい歌〉は見当たらない。なぜなら先行シングル“Re-Offender”をはじめ、フラン・ヒーリーはもっぱら人間関係の〈よじれ〉をなぞるようにしてペンを走らせているのだ。それでも絶妙なバンド・アンサンブルに鍵盤や弦楽器を絡めた繊細なサウンドは、暗い印象を与えない。大仰なメロドラマにもならない。それが彼らの持ち味なのだろう。また昨今のバンドの言動が予告していたとおり、現在の世界情勢の〈ねじれ〉も大きな影を落としており、内だけでなく外へも向けた視線が印象的だ。戦災児チャリティー・アルバム『Hope』に提供した名曲“The Beautiful Occupation”にしても、安易なメッセージ・ソングではなく、そんな世界と自分の関係を美化せず鋭く描写しており、これらを機にフランの人物像も多少なりに変わるはず。世界的な成功に関しては後発のコールドプレイに水をあけられたが、本作はトラヴィスをめぐる状況をさまざまな意味で覆す作品になるような気がする。
bounce (C)新谷 洋子
タワーレコード(2003年11月号掲載 (P70))
移動しながら聴くと、さらにしみじみと曲の細部が伝わってくる――といった音楽の種類が自分の中にあって、それは例えば、このトラヴィスやエリオット・スミスだったりする。窓から見える景色は、なにも風光明媚な山河じゃなくていい。むしろ、ゴミゴミした街並みを縫う電車にでも乗りながら耳を傾けたい音楽。通勤や通学の人。子供を連れて散歩する家族や買い物帰りのお母さん。腰の曲がった老人たち。なんの変哲もない風景に、トラヴィスの音楽はとても肯定的な詩情を浮かべてくれる。そういった意味では、彼らの音楽は本質的にはフォーク・ミュージックなのだろう。生活に寄り添う歌。アーティストとしてのエゴよりも、曲そのものに没頭する職人の険しい眉間が思い浮かぶ。だからこそ、彼らは前作を『The Invisible Band』と名付けたのだろう。つまり、〈姿が見えないバンド〉というわけだ。しかし、これだけ才能豊かなバンドを世間が放っておくわけもない。そのパラドックスの中で彼らはもがき、そしてある種の覚悟を決めた。それが、本作『12 Memories』ということになるのかもしれない。パーソナルな人間関係を扱うことに長けていたフラン・ヒーリーだが、ここではその眼差しを社会全体に向ける。数曲で共同プロデュースにクレジットされるチャド・ブレイクの歪んだ音像とも相まって、彼らは果敢に暗部の中に美しさを見い出す。それにしても、なんて志の高いグループなのだろう。
bounce (C)福田 教雄
タワーレコード(2003年11月号掲載 (P70))
」も最高の名曲。