ブックレット9頁:Disc 7:16曲目は、コラール「主イエス・キリストよ、われらを顧みたまえ BWV665」となっていますが、BWV665は「Jesus Christus, unser Heiland(我らの救い主なるイエス・キリスト)」なので誤記です。つまり正しくはBWV655です。日本語版は解説を読むのは楽なのだが、私はPCに取り込んだバッハの曲はすべて母国ドイツ語表記に統一なので、曲名の打ち直し・再翻訳が大仕事でちょっと後悔。楽器は生き物と同じで何年経っても同じではない。それは先年パリ・ノートルダム寺院の火災が物語っている。北ドイツを中心とした歴史的なパイプオルガンの響きはもはや貴重な音楽遺産である。マリー=クレールのオルガン演奏についてはもう語るところなどないだろう。20世紀を代表する名演だ。奇を衒ったようなところがなく、尖った技巧のひけらかしもなく、滋味溢れる表情が魅力である。彼女の3度目かつ最後のバッハ集成では、各CDごとに「標題」が付けられ、ほぼBWV順の前2作とは曲の並びが違っている。これは彼女によるバッハの「オルガン・アンソロジー集」と言ってもよいだろう。したがって、注意すべきはBWVに収録されたオルガン曲全曲が録音されているわけではないということだ(コンプリート・エディションではない)。前2回目との違いでは、後年の研究の成果を踏まえ、偽作疑いを中心に8つの小前奏曲とフーガ(553〜560)、幻想曲ト長調(571)、フーガト長調(576、581)、原作不明のオルガン協奏曲変ホ長調、ペダル練習曲(598)、幾つかのコラール(特に25のコラール集741〜765のほとんど)は除かれている。BWVカタログ的にとにかく網羅したいなら、1作目または2作目の方が収録数が豊富である。