エリックの声域は以前と比べて狭くなっている。特に高音域の張りや伸びが全盛期ほどではなくなり、キーも調整されている印象。ただ、その分、円熟味のある歌い方やミッドレンジの表現力に深みが出ていて、楽曲自体も彼の現在の声に合うように作られている感じがある。
ポールのギターに関しても、初期作品に比べて趣向に変化が見られる。テクニカルな速弾きを前面に出すより、フレージングの工夫や、より歌心やニュアンスを重視したアプローチになっているといえる。MR.BIGらしいキャッチーなフックは残しつつも、ポールならではの流れるようなフレーズは健在なので、昔とは違った味わいが楽しめる。
アルバム全体としては、過去作のような爆発的なエネルギーより、円熟したバンドの一体感や、ベテランならではの安定感が際立つ作品になっている印象。
しかしながら、バンド結成時のコンセプトからすれば違和感なく、徐々にそこに辿り着いたような気がする。元々、テクニカルな要素だけでなく、ソングライティングやメロディの良さを重視したバンドだったと思うので、今回のアルバムの方向性も自然な流れに感じる。年齢を重ねるにつれてテクニックの見せ方や楽曲の作り方が変化していくのは当然なのかもしれない。バンドの歴史を振り返ると、初期のキャッチーでハードロック寄りの楽曲からブルースやオルタナティブ的な要素が次第に色濃くなり、再結成後はよりバンドのケミストリーを重視した作風になっていた。
本アルバムはそうした流れの中で、彼らが「今のMR.BIGとして最も自然に出せる音」を形にした作品なのかもしれない。