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カラヤンがベルリンフィルを指揮して臨んだ『ドン・ジョヴァンニ』は、結果的に最高の演奏になったと思う。このオペラはもちろん今でも人気のある演目ではあるけれども、実際に演奏するにあたっては細心の注意を要する作品でもある。グルーヴ感に頼るだけでは必ず上滑りを起こす。深刻さを醸そうとしてテンポを落とせばあっという間に鈍重になり、次の場面との、ひいてはこのオペラ全体との整合性がギクシャクする危険がある。表面的な響きのみに拘泥すると人間の内実に迫ったこのオペラの劇性を損ない、四角四面の勧善懲悪を基軸に据えれば全体に張り巡らされたユーモアがたちどころに失われる、等々……。個人的には、これらの障壁を極めて高いレベルで乗り越えているのが、このカラヤン盤であると考えている。上っ面ではない気品がこの演奏の隅々に行き渡っているのが感じられるし、それを味わうにあたっては録音の良さも一役買っている(ちなみに、私が所有しているのは”MADE IN WEST GERMANY”という表記のある盤)。繰り返し耳を傾けるに値する最高のモーツァルトだと思う。なお、このオペラについて「デモーニッシュ」云々というのはあくまでも昔からよくある一面的且つ部分的な評価(誤解)に過ぎず、それだけで全てを語ってよいものでは断じてない。
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