ロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ〈現場の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返るコラム。今回は、言わずと知れたロックンロール・バンドの最高峰、ローリング・ストーンズのライヴDVD「Sweet Summer Sun: Hyde Park Live」について。そこにはロックンロールのすべてが映し出されていて——。
音楽ドキュメンタリー映画「ザ・ローリング・ストーンズ シャイン・ア・ライト」は演奏、収録、カメラ割り、すべてが良すぎたので、「Sweet Summer Sun: Hyde Park Live」も買ってしまいました。
レッド・ツェッペリンの「Celebration Day」も良かったです。大物たちのライヴ映像のクォリティーが高すぎます。ライヴに行くよりも家でいっしょにギターを弾きながら、酒でも飲んでいるほうが楽しいじゃないかと思ってしまいます。それに、こういう大物のアーティストのコンサートは会場がオッサンばかりで、なんか盛り上がらない感じがしますし。自分もオッサンなんですが、すいません。
でも、ここまでライヴ映像のクォリティーが上がってくると、5.1chの配線がウザイと思っていたのですが、楽しまないと損という気持ちになってきました、リアスピーカーは無線のもあったりして、配線が簡単そうなのもありますね。オーディオの世界もステレオから5.1chに移行しそうな雰囲気もありますもんね。
オーディオの話をしていてもしょうがないですね。ストーンズです。僕がストーンズのライヴをなぜ好きかと言うと、キース・リチャーズのギターの音が最高なのです。ストーンズのライヴは、ロック・ギターの最高の音が聴けるのです。ツイン・リヴァーブから出るキラキラと歪んだギターの音が最高なのです。そして、キースがこの音を出すために優しくギターを弾いている姿がとっても良いのです。
ロックはジョー・ストラマーみたいに力一杯ストラミングしないといけないという人もいるかもしれませんが、そんなことないのですよ。肩の力を抜いて、手首を柔らかくしてやるのがいちばん良いのです。何でもそうですよね。写真もいっしょです。こうやって原稿書くのもいっしょです。
ピート・タウンゼントも凄く力一杯手を振り回して弾いていますが、弦にあたる時は優しく触るようにしていると思います。ジョー・ストラマーも実はそうかもしれません。力一杯弦にピックを叩きつけてもいい音なんかしませんから。みんなわかっていると思います。
キースのギター・プレイは、僕にそういう本当のロックを思い出させてくれるのです。だから僕はストーンズのDVDを観るのです。特に最近のほうが良いですね。
ただ、そんなキースですが、今回はずっこけてましたね。酔っぱらっていたのでしょうかね。このDVDでは差し替えられましたが、1曲目の“Start Me Up”のイントロでとんでもない不協和音を出してました。指を置く場所がズレたみたいです。しかも意地になったのか、一週間後の公演でも、同じミスをしました。ギャグなのか、なんなのかわかりません。あがったんですかね。キースがあがるのかと思う人も多いと思いますが、「Hail! Hail! Rock'N'Roll」ではチャック・ベリーにギターの間違いを指摘されて弾けなくなったりしてましたから、そういう可愛い面もあるのです。どっちなんですかね。誰か訊いてください。
「ザ・ローリング・ストーンズ シャイン・ア・ライト」の時はロン・ウッドがダメな感じだったんですが、今回はキースがダメだという……〈おい、バンド結成50周年記念だぞ〉と思うのですが、そういうことをやってしまうところがストーンズなのです。ミック・ジャガーのストレスも大変だと思います。でも、こんなことがあってもストーンズがいちばんのロックンロール・バンドだということは間違いないです。ビートルズがいる頃はずっと2番だった。ビートルズがいなくなってなんとなくいちばんになっていたけど、いつのまにか、本当にいちばんのロックンロール・バンドになっています。凄いことだなと思います。
〈ロックンロールって何?〉と訊かれたら、僕はこのDVDを見せます。本当にロックンロールのすべてが詰まっています。70歳くらいのおじいちゃんのバンドだけど、でも、これが本当のロックンロールだと証明してくれているのです。他にいますか? いないですよ。大物バンドのライヴはオッサンばかりでおもしろくないと書きましたが、このDVDは、観てビックリしました。若くって、カッコイイ人たちがたくさん映っていました。海外の人はちゃんとわかっていますね。みんなロックンロールを体験しに行っているのだと思います。みんなも体験してみてください。