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トラッド・フォークは若手だけのものじゃない! アイ・アム・クルートの新作

連載
久保憲司のロック千夜一夜
公開
2013/02/13   17:58
更新
2013/02/13   17:58
テキスト
文/久保憲司


ロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ〈現場の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返る隔週コラム。今回は、マンチェスター発の3人組、アイ・アム・クルートのニュー・アルバム『Let It All In』について。ジェイク・バグやマムフォード・アンド・サンズらトラッド・フォークの匂いを忍ばせた若手が世界的な評価を高めるなか、おっさん代表(?)の彼らも相変わらずの良作を届けてくれて——。



ジェイク・バグ、やっぱりいいですね。“Two Fingers”とか、お母ちゃんに男が出来て自分の居場所がなくなるみたいなMVを観たら〈ベタなことを歌っているな〉と思うかもしれませんが、出だしの〈忘れないために酒を飲んで、忘れるために煙草を吸う〉というフレーズをあの声で歌われたら、たまらないです。完全にクラッシュのミック・ジョーンズです。聴いていると、これは〈大人になる〉ということを歌った歌なんだ、とわかってもっと涙します。

ジェイク・バグのさらなる魅力は、ビートルズのように曲が、歌がハネているところ。これが〈青春〉〈若さ〉という感覚を僕らに与えていると思います。このハネ感の元となっているシャッフルはジャズやブルースでよく使われているものだし、USのイメージがあるかもしれませんが、ビートルズ周辺のUKのバンドって、ハネていたんですよね。世界中の人たちがビートルズの魅力に取り憑かれたのは、8ビートじゃなくて、シャッフル気味のロックンロールだったからだと思うんです。そこに世界中の人たちが青春を感じたんじゃないか、って。

アイルランドの若手バンド、ストライプスもハネてますよね。音が大きくって、速いのがロックンロールじゃないんですよ。どこかハネてないと、ダンス・ミュージックじゃないと。音楽業界はダメだと言われていると思ったら、こういう原点回帰的なシンガー・ソングライターやバンドが出てくるのがおもしろいですね。特に若い子で。

でも、UKは若い子ばかりじゃなくて、おっさんロックもいいんですよ。今回で6枚目となる新作をリリースしたアイ・アム・クルートがいいんです。彼らは前作でマーキュリー・プライズにノミネートされて知名度が上がったのですが、今作ではもっと評価されると思います。暗いからマムフォード・アンド・サンズみたいにUSで評価されることはないかな……うーん、わからないです。時代は変わっていってますからね。

日本では、UKほど評価が高くないのかな。アイ・アム・クルートをプロデュースするガイ・ガーヴェイのエルボーは、それほどでもない気がする。昔はエルヴィス・コステロなんかをUKやUSと同じくらいにちゃんと評価したんですけどね。

そういったことはさておき、とにかく聴いてほしいのがアイ・アム・クルートです。UK北部のバンドらしい枯れた味わいのある音、叙情的なメロディーに、どこか意味深な歌詞。しみじみと沁みる画を観ているような気持ちにさせてくれるアルバムです。