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第60回――忘れられた名匠、HDM

連載
IN THE SHADOW OF SOUL
公開
2012/09/05   00:00
更新
2012/09/05   00:00
ソース
bounce 347号(2012年8月25日発行)
テキスト
文/林 剛


関連作のリイシューが続いてるハドリーD・マーレル……って、誰よ?



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ソウル・ミュージックの歴史を振り返った時、HDMというレーベルの名前が挙がってくることはほとんどない。記憶されているとすれば、〈へそダイヤ〉の愛称で親しまれてきたブラック・アイスの『Black Ice』(77年)くらいか。ところが、ここにきて同グループを含むHDM関連の作品が次々とCD化され、ようやくその存在に光が当たりはじめた。

レーベル創設者はハドリーD・マーレル。HDMとはその頭文字を取って命名されたものだ。アリゾナ州フェニックスでラジオDJをやり、コンサート・プロモーターとしてジェイムス・ブラウンらを招聘する傍ら、60年代中期からプロデューサーとして活動していたハドリー。その頃に手掛けたアーティストは、サーヴィスメン、ロイ&ザ・デュードロップス、エディ&アーニーといった地元の面々で、例えばノーザン・ソウル人気の高いサーヴィスメン“I Need A Helping Hand”を聴くとわかるように、当時の彼はモータウンなどに影響を受けたポップなソウルを創作していた。自身もメンバーだったとされるフレディ・ヘンチ&ザ・ソウル・セッターズではサザン・ロック趣味も披露。それらの仕事で築いたコネクションを通じてハドリーは移住先のLAでスモークド・シュガーというグループに出会い、エディ・ホーランや元ワッツ103rdストリート・リズム・バンドのレイ・ジャクソンを腹心のスタッフとして、スモークド・シュガーのプロデュースを手掛ける。だが、作品はほとんど話題にならず……そんな苦い経験をバネに立ち上げたのが自主レーベルのHDMだったようだ。



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HDMはハリウッドを拠点に、77年から80年代中期くらいまで稼働。当初はアムハーストが配給を行い、途中からTKプロダクションズが流通を引き継いでいた。当時らしくディスコ調の曲を出せば、ディープ・ソウル、スウィート・ソウル、ドゥワップ調など、特定のレーベル・カラーこそ見い出せないものの、元ラジオDJらしい好奇心と卓抜したセンスで多様な楽曲を制作。だが、そんななかでもヴォーカル・コンシャスであり続けたことは、HDMのレーベル・スピリットと言えるのかもしれない。

右腕のエディ・ホーランがマイケル・ジャクソンに“You're Good For Me”(73年録音。86年公開)を提供するなど、モータウンとも親交があったハドリー一派。特にハル・デイヴィスとは懇意で、それゆえか、HDMのセッションにはジェイムズ・アンソニー・カーマイケルやジェイムズ・ギャドソンらも参加していた。80年代にはHDMの事業が縮小するもミラージュやモンタージュと関わりを持ち、ブラコン・サウンドに対応しながら旧知のリッチ・ケイソンの仕事もサポートして地道に制作を続けていく。結果としてその名は広く浸透せず、いまだに謎の部分も多い。が、このたび一挙リイシューされた作品群がレーベルの魅力を紐解く一助となってくれることだろう。



▼関連盤を紹介。
左から、アリゾナ時代のハドリー関連楽曲集『The Soul Side Of The Street: Hot Phoenix Soul Sides From The Vaults Of Hadley Murrell』(Bacchus Archives)、“You're Good For Me”を収めたマイケル・ジャクソンの編集盤『Hello World -The Motown Solo Collection』(Hip-O)

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