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長田進

留まることを知らず、グングンと〈MALPASO〉を行くチャレンジャーのすごくカッコイイ話

連載
360°
公開
2010/06/25   20:03
更新
2010/06/25   20:04
ソース
bounce 322号 (2010年6月25日発行)
テキスト
インタヴュー・文/宮本英夫

 

きっかけは、昨年春にGRAPEVINEが長田進をゲストに招いて行った数回のライヴだった。ここ数年、プロデューサーとバンドという関係で絆を深めていた両者は、予想を超える手応えに触発され、長田進の楽曲と歌をメインにコラボするという新たな方法にトライすることを決める。そして出来上がったのが、長田進 with GRAPEVINEのニュー・アルバム『MALPASO』だ。

「ソロをやってるという意識はあんまりないね。コラボレーションとして、同じ空気感のなかでモノを作るということ。プロデュースする側とされる側の垣根を越えて、新しいものが出来ればいいというコンセプトかな」(長田進、以下同)。

長田とGRAPEVINEのイメージを重ね合わせると、古いロックやブルースの話で盛り上がっていそうな気もするが、そんなことはないらしい。最近の共通の話題は、ウィルコなどのオルタナティヴ・ロックやエイミー・マンなどのシンガー・ソングライターの話が多いそうだ。

「彼らはかなり年下だけど、同じ時代を生きてるというところで同じミュージシャンとして共感できる部分がいっぱいあるんだよね。いっしょにライヴを観に行ったり、何が好きかっていう話はよくしてる。だいたい似てるよね。彼らのほうがよく知ってるけど」。

収録曲の約半分は、彼のアコギと歌にGRAPEVINEがシンプルなバックを付けた曲で、それ以外は全員が渾然一体となって突き進むヘヴィーなナンバーや、空間的なエフェクトをたっぷり効かせたスロウなオルタナティヴ・ロック。歌詞は響きの美しさと映像的イメージを重視したもので、英語と日本語を織り交ぜ、長田の深く艶やかな声で歌われる。この声、本当に魅力的だ。

「そうですか? ありがとうございます。低いんですよね。いまはみんな、割と高い声で歌いたがるけど、自分は喋るように歌えればいいなというのがあるから。俺が好きなアーティストで、シャウトするような人はあんまりいないし、そういう影響もあるのかな」。

とはいえ、このアルバムは全体に渋く、レイドバックしたようなムードは一切ない。伝わってくる感情はあくまで熱く、激しく、新しい。CDのなかの音と鋭く向き合わざるを得ない気迫に満ちたこの音楽を、今世に問うこと自体に強いメッセージがあるのではないか?

「それは日本の音楽シーンに対してってこと? あることはあるね。いま売れてるものが悪いって言うつもりは全然ないけど、もっといろんな音楽があっていいんじゃないか?と思ってるんで。30年前、俺が仕事を始めた頃に比べて、日本の音楽は捨てたもんじゃないなって思う部分もいっぱいあるけど、変わってない部分はまだあるし、そういうところに挑戦し続けたいっていうのはある。活き活きとした音楽、やりたいよね」。

ボーナス・ディスク的なDisc-2には、セルフ・レコーディングしたデモ・トラックに加え、奥田民生が書き下ろし、ギターでも参加した“俺の車”も収録されている。

「彼がお祝いみたいにして作ってくれたんだと思うけどね。そういう気持ちって嬉しいじゃない? でも俺の声のキーで書いてくれたから、民生もギターを弾いてる時に〈低いな〉って言ってたね」。

『MALPASO』はスペイン語で、英語では〈Bad Road〉、日本語に意訳するなら〈茨の道〉。ミュージシャン生活30年を超えてなお新しい刺激を求めてコラボを試み、プロデュースを行い、若いミュージシャンと日々セッションを繰り返す。長田進の生き方に、これほど相応しい言葉はないだろう。

「これ、クリント・イーストウッドの会社の名前なんですよ。80歳になろうというのに映画をバンバン作るヴァイタリティーとか、ハリウッドとは一線を画してる部分とか、いまの自分にピッタリくるかなと思ってね。あえて茨の道を行くんだということです」。

 

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