14時。いつの14時かはわからない。ただ目が覚めたら14時だった。恐ろしく長い夢を見ていた気がする。でも、時々現実だった気もする。何か不思議な気分だ。そう思った俺は、腹が減ったついでに〈Bar YAMAGA〉までランチを食べに出かけることにした。
ランチタイムの混雑を過ぎた〈YAMAGA〉は、お客さんはいるものの閑散としていた。とりあえず、おばちゃん店員にビールを注文しながら、空腹を満たしてくれるメニューを追っていった。そのビールが運ばれた時、俺がご飯ものを注文しようとすると、おばちゃん店員が言う。「ああ、いま厨房が掃除に入っちゃったから火を使う料理が出せないんだよねえ」「え? じゃあ、何なら出せるんですか?」「ん~、お新香とお茶漬けだけかな」「じゃあ、お新香とお茶漬けください。あ、シャケで!」「あいよ」。そのやり取りの後、ビールを口にしながらタバコに火を点ける。するとおばちゃん店員が戻ってきて俺に言う。「ごめんね~。お茶漬けなんだけど、シャケが切れちゃって。ウメか海苔になっちゃうんだけど、ウメ茶漬けでいいよね?」「ああ、はい」。
しばらくして、俺はトイレに立った。灯りが点いてなかった。スイッチを探してカチャカチャしてみたが反応はない。「すいませ~ん!」。店員さんを呼ぶと、さっきのおばちゃん店員がやってきた。「何か電球が切れてるみたいなんすけど……」「ダメ~? やっぱり明るくないとできないかな~?」と言いながら電球を取り替えてくれた。用を足した俺は店内を見回した。「あれ!? あそこのテーブルあたりでキース・リチャーズが酔い潰れて寝てたよな~!?」。
店を後にして家に戻った俺は眠くなった。疲れが溜まっているのか、はたまた2日目の酔いが激しいのか。いずれにせよ横になった。寝た。そして夢を見た。見覚えのある酒場だった。まさしくそこは〈Bar YAMAGA〉。また俺はそこにいた。そして一人の男が俺に近づいてくる。その男は俺に声をかける。「よお、ムトウ。今日も来たのか? よし、いっしょに飲むか……ん~、それとも焼くか、お好み焼き!」。トム・ウェイツだった。ん? 夢なのか? 俺は本当に家に帰ったのか? ……いやいやいや。ん~、やっぱり酔ってるわ、俺。
……武藤昭平、あくまでも妄想の話。
深夜の妄想盤
TOM WAITS『Closing Time』 Asylum(1973)
感傷的な歌声がロマンティックに響く素晴らしいデビュー作。武藤さんのお気に入り盤とのことですが、私も店を閉めた後はコレを聴きながらカウンターで一人ウィスキー・グラスを傾けているんですよ。夢うつつなムードが、〈Bar YAMAGA〉にピッタリで……あれ、これは夢なんですか?
河島英五『ゴールデン☆ベスト 河島英五ヒット全曲集』 ソニー
いまの武藤さんは、まさにオープニングを飾る“酒と泪と男と女”状態ですね。飲んで飲んで飲まれて飲んだ後、〈やがて男は静かに寝むる〉のです。そして目が覚めたら、ふたたび〈Bar YAMAGA〉に足を運んでしまうのでしょう。またの来店をお待ちしています!
PROFILE/武藤昭平
ジャズとパンクを融合させたオリジナルなサウンドで人気の伊達男音楽集団、勝手にしやがれのドラマー/ヴォーカリスト。ファースト・ソロ・アルバム『トゥーペア』(tearbridge)が好評リリース中。さらにウエノコウジとのユニットでも絶賛活動中! 最新情報は〈www.katteni- shiyagare.com〉にて随時更新中ですよ~!